
Praktica FX2 Nr.246280
Praktica FXは、デザインが一新されて1955年にPraktica FX2としてモデル・チェンジした。資料によると、初期ロットでは、外観とファインダー構造のみが変更され、基本構造はFXと同じであったらしいが、後のロットでは、半自動絞り機能のついた新しいM42レンズを装着して使用出来るように、レンズ・マウントの内部に連動装置が設けられている。これは、上位機種のPraktinaに続いてPrakticaが世に先駆けて採用した仕組みであって、FX2の最も重要な存在意義であった。なお、西側への輸出モデルはFX3と別系列名が与えられている。

外観の変更は、主にファインダー周辺と軍幹部及び名鈑のデザインであり、前面のシンクロ接点の汎用ソケット化は前モデルのFX後期に行われている。

ファインダー周辺では、ピント・スクリーンは引き続きコンデンサ・レンズの底面をすりガラスにしたマット面であるが、ファインダー・フードの構造は一新された。ウェスト・レベルで使う場合、FXが4面とも遮光板が立ち上がるのに対して、FX2では手前側の遮光板が省略されたので、ピント・スクリーンへの光の差し込みが多くなった。しかしアイ・レベルの透視ファインダーの組立は簡素化され、流線型を帯びた正面カバーをはね上げ、格納されているマグニファイヤ・レンズを手前に引きだし、手前から視野枠を引き上げれば固定される構造になった。この改良は、ウェスト・レベルでの撮影から早くアイ・レベルへ脱却したいという当時の願望の現れと見ることが出来る。

それを証するかのように、FX2には外付けの専用ペンタ・プリズム・ファインダーが供給されている。着脱には細心の注意を要する。ファインダーを覗いた感じは、非常に暗く、ピントの山も掴みにくい。なぜなら、着脱式のためプリズム面とピント面との間に2cm近い距離があり、直接ピント面を見て最適な明るさのマット面をかなり遠くに眺めてピント合わせする感じがあるのと、アイ・レベル撮影に慣れた目では両目を開けたまま撮影する習慣があるのだが、裸眼位置の高さが、撮影レンズ位置と違い過ぎるためにストレスがかかって使いにくい。注意深くやればフレーミングとピント合わせが出来、透視ファインダーよりはマシですよという程度のものである。当時、一眼レフの趨勢は、Contax D、Praktina、Alpaなど、既にペンタ・プリズム・ファインダーを標準装備出来る程度に進んでいたので、これに対応するためと思われる。Praktica FXが本格的にペンタ・プリズム・ファインダーを標準装備するのは1959年のPraktica IVまで待たなければならなかった。

しかしながらM42マウントのカメラとしては、レンズの自動絞りをボディに連動させる試みには最も早く成功した。上の写真は、FX2のレンズ・マウント内部の連動装置を示したものである。まず自動絞りということについて説明する。これは現在の全自動が当たり前のデジタル・カメラ世代にとっては全く想像も出来ないことに違いないが、レンズに内蔵されている絞りを、所定の位置まで絞り込む動作の自動化のことを指している。全く自動化されていない写真機を使う場合、写真撮影には、先ず露出を計測して、適切なフィルム感度と絞り値とシャッター速度の組み合わせを選ぶ必要がある。その際、撮影意図に応じて先ず絞り値を決めるのが普通であるが、ピント合わせの際には、ピントの山を掴みやすくするために絞りを開放する必要がある。つまり、ピント合わせの前には絞りを開放にし、ピントを合わせた後に絞り込む。その際、希望する絞り値の指標を確認するために、一旦ファインダーから目を離してピントやフレーミングがずれることが悩みの種であった。全く自動化されていないカメラを使ってみれば、その不便さにショックを受けるだろう。撮影の瞬間の、その大切な局面だけでも自動化されれば、つまり絞り値は予めセットしておいて絞りを開放し、フレーミングとピント合わせの後、シャッター・レリーズと同時にレンズが絞り込まれるように出来れば楽になる。このような素朴な欲求からカメラの自動化は始まったのである。M42マウント・レンズの場合、マウント面に自動絞り用のピンが出ていて、これを押し込むことによって内蔵の絞り羽根が所定の位置まで絞り込まれる構造が考案された。カメラ・ボディの側では、レンズ・マウント内に設置されたスライダーがピンを押して両者が連動するようにしたのである。これは世界中で規格統一され、相互に交換可能になった。しかしM42マウントは捻じ込み式であるので、ピンの位置が確定出来ないから、だいたいピンがカメラ底部に来るように双方のネジの切り方を決めておいて、ピンを押すボディ側のスライダーにも一定の幅を持たせてある。

Praktica FX2の絞り連動部分最大の特徴は、連動と非連動の切り替えが出来る点である。上の写真は、シャッター・ボタンを押した状態である。シャッター・ボタンの動きに連動して、ピンを押すスライダーがマウント面の方へ前進している。スライダーがせり出してからシャッター幕が動作するようにタイミングが計られている。内部に赤いボタンが見える。これを溝に沿って右にずらすと、シャッター・ボタンを押した状態でもスライダーは動かず、元の位置のままで保持される。なぜこのような機構が備えられているのかというと、当時のM42レンズは、手動絞りとプリセット絞りが大半で、半自動絞りを組み込んだものも出はじめてはいたが、なかなか後が続かなかった。特にPrakticaが製造されていた東ドイツではその傾向が強く、西ドイツのレンズ・メーカーは同じ頃西ドイツで発売されていたEdixaのシリーズにレンズを供給する傾向があったのでなおさらであった。当時Prakticaの標準レンズとして採用されていたCarl Zeiss JenaのTessarやBiotarなどのプリセット絞りのモデルでは、なぜかマウント面から後端の出っ張りが大きく、このスライダーを逆に押し込んでしまってシャッターが切れなくなる。このため、これらのレンズを使うときは、赤いボタンを右にずらしてこれを回避したのである。皮肉なことに、革新的な連動機能を持ちながら、Praktica第一世代の生存期に供給されたレンズの殆どは、ボディとの連動を要としないプリセット絞りのものであった。この機能は、むしろ後の時代になって、世界中のM42レンズを楽しむ写真趣味に大きく貢献した。新旧のレンズが使えるボディは多くないからである。他に同様の機能を持つものとしては、先述した西ドイツのEdixaがある。これはもっとスマートな方法でこの問題を解決しているが、詳細はEdixaについて記録するときに紹介するとしよう。

さてPraktica FX2は、このようにウェスト・レベルからアイ・レベルへのファインダーの移行、レンズの自動絞りへの対応と、当時の写真機の発展の過渡期に対応した歴史を伺い知ることの出来る楽しいカメラである。しかしながら、私は連動機能のないウェスト・レベル撮影専用の旧型のFXを愛する。なぜなら撮影態勢ではボディを上から見ているので、絞りリングの指標はファインダーを味ながら出来るからだ。そしてなにより、ウェスト・レベルでの撮影というものは、周囲に写真を撮っていることを知られにくく、場の空気を乱さない慎み深さがある。また、前面から押し込むシャッター・ボタンは、ウェスト・レベルで使ってこそ使いやすい。アイ・レベルで前面ボタン、或いはウェスト・レベルで軍幹部にボタンがあるのは、使ってみると以外に使いにくいのである。今となってはこういう撮影のしかたの出来るカメラがないことが、むしろ残念でならない。さて、写真は私の所有するPraktica第一世代の諸カメラである。Prakticaという大変魅力溢れるカメラについては、このサイトの情報が最も詳しいと思うが、なお後のモデルについても主観的に書きつづっていきたい。
http://www.praktica-collector.de/
posted by jakiswede at 13:44|
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