自己発熱が少し落ち着いてきたので、ここで出麹とする。醤油は、これを塩水で割って本仕込みとする。問題は、水と塩の量である。醤油の作り方にはいろいろあって、多くのメーカーでは秘伝となっているので、そのレシピは教えてもらえないのだが、手作り醤油について記載された資料のうち、信頼できる書方のされているものについて総合すると、だいたい次のようになる。
醤油麹と同量の塩水で仕込む。
最終的にもろみの塩分濃度が16%程度になるのが良い。
さて、うっかり聞き流すとなんでもないことのようだが、実は非常に複雑なことが書いてある。まず「同量」とは何か、文脈からすると液体を混合するので、それは体積であろうと思われる。事実、多くの資料では、塩水の量をリットル乃至ccで表している。で、濃度とは何か、これは明らかに重量比である。どこで話がすり替わったのか、私は論理のすり替えを厳しく嫌う性格を幼少の頃から有している。したがってこれはキューメーされねばならない。
・・・・略・・・・
長くなるので推論の過程は省略して、だいたいの眼目だけを書くことにする。
醤油麹と同じ体積の塩水を作らなければならないので、まずは出麹の体積を測る。不定形な状態なので、私は写真のようにしている。つまり、水をいっぱいまで満たしたボウルに、ぎゅうぎゅうに詰めた麹を浸して、あふれ出た水の体積を測る。水は方円の器に従うのである。
できれば袋を水につける前に、その重さを測っておいた方が良い。これで、出麹の体積と重量は出た。
出麹の体積をa、重量をbとし、上の二つの命題を満たす連立方程式を考える。aとbは定数であるのであとから代入するとして、変数である水と塩の量を、それぞれx、yとおく。
これをまずは表にしておく。
出麹の体積 = a 重量 = b
仕込水の体積 = x 重量 = x
塩の体積 不要 重量 = y
醪の体積 不要 重量 = b + x + y
水の比重は1なので、体積と重量は等しい。一方、塩を水に溶かすと、重量は両者の和になるが、体積はそうならない。なぜなら、溶解すると分子の中にイオンが融けこむからである (たぶん) 。で、それをあらかじめ実験してみると、だいたい20℃で100ccの水に20gの塩を溶かした食塩水の体積は、概ね110ccになった。いろんな資料を当たってもだいたい同じような数字が出ているし、私の塩は粗塩なので、誤差はより大きいであろう。そこで、麹と同じ体積の塩水を仕込むのであるから、仕込む塩の重量と、仕込む塩水の体積を架橋するために、次の方程式を考えた。つまり塩の体積の半分は水の分子の間に溶け込むイメージである。
x + y/2 ≒ a
これを出麹に混合した結果、その塩分濃度が16%程度になるのが良いというのだから、素直に等式化すれば次のようになる。
y/(b+x+y) ≒ 0.16
この二つの連立方程式をxとyについて解くと、次のようになる。
x ≒ 0.91a - 0.09b
y ≒ 0.18(a+b)
出麹を計測した結果、体積 a = 3720、重量 b = 1620と出た。記憶の良い人は疑問に思うであろう。麹を仕込むときに、豆と麦を乾燥状態で各1kg使用したはずである。合計2kgの乾物が、なぜ水分を含んだのに20%近くも軽くなるのか。まあその探求は後にしよう。とりあえずその数値を上の式に代入すると、次のようになる。
用意する水の体積 x = 3239
用意する塩の重さ y = 961
念のためこれを仕込んだ場合の醪の塩分濃度を計算すると、961/ (1620+3239+961) = 0.165… OK !!
ちなみに上の通り用意する塩水の濃度は23%程度になるので、これは湯にしないと溶けない。その通りやってみたのが写真である。だとすると、ここまでの複雑な考察は、次のように簡略することができるかもしれない。豆1kgと麦1kgで麹を仕込んだ場合、ルクルーゼの24cm鍋に8.5分目くらいの水を沸かして1kgの塩をぶち込んでかき回し、冷めてからで麹に仕込めば良い。なんや、ほなそこらクッキング・レシビに書いてあることとおんなしやんけ (`へっ’