Can: Tago Mago (2LPs, United Artists, UAD60009/ 10, 1971, UK)
Paper House
Mushroom
Oh Yeah
Hallelujah
Aumgn
Peking O.
Bring me coffee or tea
2016年はPierre Baroughの訃報で終わり、2017年は、師匠Jaki Liebezeitの訃報で明けた。世の中は確実に不寛容に向かって驀進しており、もはや正義を語ることさえ虚しく感じられる。いかに自分を守るか、正義のためではなく、自分が自分らしく生き伸びるために、それを脅かす物事に対しては、決然と「No !! 」と言おう。一昨年は友人が10人死に、去年は3人死んだ。ビジネスのあり方も変わり、もはや私のような老ぼれに出る幕はない。やるべきことを、いかにやりとげるか、生きている間に、どれだけやりおおせるのか、もはや「やる」しかない。残された時間も、自分の気力体力経済力も、もはや有限で、しかも多くはない。とりかかって散在している細々したことを、形になるまで待っているゆとりはない。行動だ。
Canは、のちの音楽シーンに極めて大きな影響を及ぼしたドイツのプログレッシブ・ロック・バンドである。1968年に結成され1979年に解散するが、重要な時期は1973年にボーカリストであった「ダモ」鈴木が脱退するまでと言えるだろう。この間、「Monster Movie」・「Soundtracks」・「Tago Mago」・「Ege Bamyasi」・「Future Days」という5枚のオリジナル・アルバムを発表している。その次の「Soon Over Babaluma」はまあまあだが、同年に発売された、それまでの未収録曲を集めた「Unlimited Edition」という作品集は非常に重要である。メンバーは、当初Irmin Schmidt・Holger Czukay・David Johnson・Michael Karoli・Jaki Liebezeitであったが、それは西洋クラシック音楽の素養に基づいた延長線上における実験音楽であり、電気楽器や電子楽器やロック的な手法、さらにアフリカ・南米・アジアの民族音楽を題材にとった演奏を取り入れることにより、新しい境地を模索するものであった。このことは、彼らがロック・バンドでありながら、全くその枠に収まらないスケールの大きさとダイナミズムと、実験的精神を持ち得た源泉であり、これこそCanがのちのちまで高く評価される所以であると思う。しかし、彼らの音楽性がロックに傾倒していったことからDavid Johnsonは脱退し、ボーカリストとしてMalcolm Mooneyを迎えることになる。彼は「Monster Movie」と「Soundtracks」の一部に録音を残すが、精神的な要因で脱退する。その頃のCanの活動は、アルバムに残されたような「楽曲」を演奏するばかりでなく、ライブ・パフォーマンスの上で、極めて長時間、時によっては何日も演奏し続けるようなキョーレツなことをやっていた。肉体的実験音楽の極みである。そんななかでアメリカからヨーロッパを放浪していた「ダモ」鈴木と出会って、その日のうちにライブに参加し、そのまま三人目のボーカリストとして加入することになる。そして彼こそがCanの音楽性を決定付けたと言って良く、その在籍時代の彼らの演奏は他に類するものがないほど素晴らしい。上記のアルバムは、すべて、包括的総合的な意味合いにおいて、私の人生を決定付けた。
特に、彼らの3作目「Tago Mago」は、最も深く心身に刻み込まれた作品である。なかでもLPのB面全体18分強を費やして演奏される ≫Hallelujah ≫は、混沌と反復・呪術的陶酔と刺激的覚醒の連打であって、彼らの音楽的見聞や体験や実践や、その他あらゆることを「缶」にぶち込んで発酵させ、煮詰め、熟成させてぶちまけたものに他ならず、これこそまさにCanのCanたる真骨頂、他に適当な言葉が見当たらないが、要するに宇宙 !! である。特にリズムを重視したこの曲と、逆にリズムをことごとく無視した、C面全体17分強の ≫Aumgn ≫の2曲は、長時間に渡ったという彼らのライブ・パフォーマンスを彷彿とさせるものであり、多様性に満ちた彼らの音世界の様々な側面を見せてくれる。A面の3曲は比較的まとまった歌もの、そして最後のD面は、狂いに狂いまくった挙句、激しい射精とともに虚脱状態に陥ったかのような、深くだだっ広い虚無感に突き落とされる。この作品は、常にここから始まり、常にここに立ち戻ることができ、しかも無限のアイディアを今も私に与え続けてくれ、可能性という夢に満ちた力で私を奮い立たせてくれ、最後に力つきるほどに脱力させてくれる、かけがえのないものである。
私の持っているものはイギリス盤の再発ものであるが、ドイツ原盤はボックスセットのスリーブ写真がジャケットになっている。上記の他の諸作品について概説すると、「Monster Movie」は極めてシンプルで一本調子でパンク的ですらあるロックンロール、「Soundtracks」は映画のために作られた小品集、「Ege Bamyasi」は混沌からポップへと徐々に広がりを見せ、「Future Days」は極めてシンフォニック且つプリミティブな宇宙的音世界を現出して彼らの最高傑作と評価されている。「Unlimited Edition」は、結成当初から録りためられたものから選ばれた作品集で、単なるアイディアのスケッチから、額装された大作という体裁を保つものまで、雑多にぶち込まれている。
このシンバルはあなたの形見になってしもた (;_;) なんということだ。私にとっては、もうこれ以上の悲しみはない。私の全て、私の血肉といって良い。言葉もなく、ただ悲しみだけがある。