朝食のとき神父の一人が言うには、彼が頼んだ近在のロコレ職人のところへこれから作業を見に行くらしい。なんでも一昨日頼んだら、すぐに木を切り倒しに行ってもう三日目だから形になってる筈だと言うのである。しかし私がついて行って外国人の姿を見ると、絶対値段をつり上げるから、私は物陰に隠れていて、交渉がまとまり次第、細かい要求を出せば良いとのこと。うむ。なかなか筋の通った話だ。食後、バイクの後ろに捕まって、近在のその家まで行ってみた。「ここで待て」という別の家で、そこのねーちゃんとエロエロ・・・失礼、イロイロ雑談しているうちに時間が過ぎ、一時間以上を経てようやく彼が戻って来たが、どうにも浮かない顔をしている。訊くと本人が不在で、仕事場らしき場所にも木のかけらもないと言うのである。その時点で、私はこの線は消えたと悟った。しかし彼は自分が推薦したものだから責任を感じていて、なんとか捜し出して今日中には届けさせるなんて無茶なことを言うものだから、まあまあそう気ぃ遣わんでええてと言うて慰めながら帰って来た。もしかしたら、彼が前金を払ってしまったのかもしれない。
今日も暑い。さすが赤道直下である。自分の影に入って休みたいと思うが、それも出来ない。Bikoroまで行けば、Mbandakaまではタクシー・ビスが頻繁に走っているという話だったが、それも事実無根である。昨日今日と市場へ出る度に街道への交差点を注意深く眺めているが、それらしき車の姿は見られない。Missionで訊いても市場で訊いても、Mbandakaへ行くには、行商のトラックに便乗するしか方法はないとの話である。アホな写真を撮って喜んどるうちに太陽はみるみる真上まで昇り、通りから人影が消えた。「暑いから日陰に入れ」と聞き覚えのある声がするので振り向いてみると、昨日のバンド連中である。
彼らに促されるままに、とある家の中庭に入った。学生たちが昼飯を待っているところで、そこはレストランというか、いわば顔見知りに賄いをして小銭を稼いでいる家のようだった。そこで昼飯のご相伴に預かった。昼食後、暑気が収まるまで木陰で寛いでから、みんなで私を街に案内して出てくれた。もちろんロコレのことも話題に上ったが、とある家で、この町の人だが今は仕事でMbandakaに行っているというロコレ作りの名人の家を教えてもらった。みんなでそこを訪ねると、彼の家族は大変喜んで、名手Papa FrancのMbandakaでの住所を教えてくれた。そこは貧しい家だったが、若者が大挙して訪れたことに喜び、子供たちが四方へ散ってビールや果物などをかき集めて来た。ささやかな宴は小一時間ほど続いた。
市場に戻ると、荷物を満載したボロボロのランド・クルーザーが停まっていたので、運転手と思しき人物にこれからどこヘ行くのかと訊いてみたら、なんと明朝Mbandakaへ発つと言う。まだロコレが手に入らないのが気がかりではあったが、とりあえず事情を説明して席を仮押さえしてくれと頼むと、18時までに確約が欲しいという。向こうも商売だから仕方がない。Missionへ戻ると、King Joeが少々不機嫌な顔をして待っていた。見ると、なんと赤い木 (bois rouge) の見事なロコレを携えていた。Itshcarli師匠の言うごとく、まるで「鶏の鳴くような」甲高くて鋭い音が響き渡る。なんとも非の打ち所がなかったので、約束通りUSD50で買うことにした。他にもう一つ、ちょっと落ちるが悪くはない古いロコレもあったので、こちらは師匠へのお土産用にUSD15で買った。あたりまえや。師匠は腕があるんやから楽器の鳴りの足らん分ぐらい腕で補えるやろ。私はまだまだぺーぺーやさかい鳴るやつ持って帰らなあかんのや。よっしゃ、これでとりあえず坊主はなくなった。あとは逃げる段取りだけや。と、そこへ朝の神父がやって来て、やっぱり職人が戻らないと言うので、もう諦めた方が良いと伝えた。このようにとりあえず二つのロコレは手に入ったのだから、私はこれで満足だと言ったので、幾分彼の表情も晴れた。
そこで荷造りを調えて明日の準備をし、市場ヘ行って例の運転手に明日乗ることを伝えて前金を払った。帰り道、往来のたびに冗談を言いあった湖畔の露天商のところで、土地の珍しい売り物を写真に撮ろうとしていたら、すっと若者が近づいて来て「ヤバい、今はやめとけ」と耳打ちして去って行った。見ると、DGMの職員が兵士を連れてパトロールして来るところだった。危ない危ない。気を許したらあかん。私がいかに彼らと同化していると感じようとも、彼らから見れば、非常に目立つ異邦人であることに変わりはない。常に多くの目が私を監視していることだけは、肝に銘じなければならん。特にこれから赴くのは、コンゴ第三の都市Mbandakaである。用心せな・・・
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