所用で宝塚の実家へ戻ることになり、途中、気が向いて新名神高速の建設現場を経由してみた。これは、宝塚市の切畑という集落と猪名川町の広根という集落を結んでいる細道で、緑の向こうには猪名川町のニュータウンが見えている。この道は私が子供の頃、よく自転車で走り回ったルートである。生瀬から十万辻を越えて長尾連山の北に入り、西谷の集落の入口から東へ進路を取るとここに出る。私はここが大変好きであった。なぜかというと、この先、道は穏やかな田園風景から一変して、深い緑に包まれた森の中の小川に沿って進むのだが、上の写真で道が途切れるように見えるところから急な下り坂となり、自転車は速度を上げながら薄暗い森の懐へ吸い込まれて行く。その感覚がたまらなく好きだったからである。
小川に沿ったこの谷は、新名神高速道路の建設予定地である。大型車など行き交う事の出来なかった小道を山を切り通して拡幅し、一般車と工事用車輌が行き交う。それでも離合困難箇所が至る所にあるので、区間を区切って片側交互通行となり、通過車輌は区間ごとに警備員によって管理されている。従って風景をつぶさに眺めている心の余裕はない。緑の懐に吸い込まれるようだった下り坂も、このような有様であった。
谷間には小さな田畑が点在していた。その間を流れる小川もあった。世間から打ち捨てられたような空間で、車どころか人もほとんど通らない道だった。私は自転車を止めて川に降り、木漏れ日の瞬くのを見、光が様々に映し出してくれる草花の有様を楽しんだものだった。