ナン工房の若者たちに礼を述べてそこを辞し、再び表通りに出ると雪が降ってきた。足許は凍りつくように冷たくぬかるんでいる。靴もびしょぬれであった。とりあえず暖を取るためにバザールへ向かう。高級土産物店は、まだシーズンが来ていないからなのか、ほとんど開いていない。
でもその方が、庶民のいろいろな顔が見られて楽しい。Tashkentはロシア系の白人も多く、街は人種の坩堝のようであったが、ここSamarkandは、モンゴル・トルコ・イランなど、アジアの広大な大地と複雑な歴史を感じさせるさまざまな「顔」に出会う。ナン工房と店の間を行き来するモンゴル系の少年。
バザールの中のブティック街の一角である。もちろん野菜・肉・魚・香辛料などで活気のあふれる大きな区画もある。ここで土井ちゃんと別れて自由行動、私は食い気よりも楽器、道具、日用品に目が行くのである。
バザールを東へ外れるとバス・ターミナルがある。交通の要衝というものは、どこも一種独特の無政府状態であって、たいていの旅行者はこういうところでトラブルに巻き込まれる。葉っぱを売りに来る者、闇両替を持ちかける者、いかがわしい遊びへ勧誘する者、バザールの中に店舗を持てない行商人、乞食・・・一人旅なら、この9番のバスに飛び乗って終点まで行ってみたいところだが、連れのある旅ではそうも行かぬ。
バザールの北に、いにしえのSamarkandの街があったというAfroshabの丘という遺跡がある。広大な草原で、所々に墓碑が建つ。その中をいくつもの踏み跡が伸びていて、それを辿っていくと眩暈がするほどに地平線の向こうへとおびき寄せられ、糸の切れた凧のようにすべてをかなぐり捨てて飛び去ってしまいたい衝動に駆られる。いやいや、しかし今回は帰らなければならない旅、ここはじっと我慢我慢・・・寒々として見えるのは、実際寒い時期だったから。
気を取り直して丘の入り口にある寺院の塔からレギスタン広場方面を振り返る。ああ、Samarkand・・・
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