手短に書こう。隣家の息子さんが数年前に帰ってきて専業農家として実家を継ぎ、ハウス栽培で独自ブランドを立ち上げて一定の成果を収めているのだが、今シーズンからはその規模を3倍に拡大すべく、春から施設の造成に取りかかっていること、それについて近隣から苦情が出ていることについては既に書いた。ムラというところは、都会ではおよそ想像も出来ないことが起り、びっくりするような判断がまかり通るものだ。いろいろ勉強になる。
さてこの施設の建設計画について、3月ごろに本人より説明があった。私は隣で田畑を作っているので、年明けには「なにかやるんだな」と気付いていた。説明のあった時には私の地主もいた。その後集落の人とすれ違うたびにそのことが話題になったので、近隣関係者で知らない人はいなかったはずだ。
工事に取りかかるために既設のハウスを撤去しはじめたのは4月に入ってから、造成が始まったのは5月のことである。ところが先日、急遽この計画についての「説明会」なるものが行われたのだが、私はそれに参加して驚かされ、あきれ返り、止むを得ずある提案をしたがために現在のところ孤立した状態になっている。
全く驚かされたことに、参加者のほとんどは、この計画について「正式には説明を受けていない」と言うのである。私のところの地主もそうだ。建設計画について、3月ごろに本人より説明があったことは事実だが、地主は「正式には説明を受けていない」と言う。何を以て「正式」とするのか私は問いたい。関係者全員は、少なくとも計画を知りうる立場にいたし、充分な時間があった。その時点で苦情は出ていなかった。しかし、基礎工事もあらかた終り、もはや計画を撤回出来ないところまで来てから、集落の誰もが一斉に苦情を訴えはじめたのである。苦情を言うほど不安であるならば、私なら計画を知った段階で、正しい知識を得るために努力したであろう。誰もそれをせず、今になって急遽「会合」という形で苦情を言い募るのは、その苦情の内容以外の別の目的があるように思われてならない。
会合では、初めに本人から動機について説明があった。先祖から受け継いだ農地を専業農家として経営するには、ある程度規模の大きな施設園芸しか道はないと判断し、この集落でも実質的な農業後継者がいないなかで農業の火を絶やすまいとの気持から事業に取り組む決断をしたとのこと。施設の概要については、規模は農地5反、環境負荷の低減にも充分配慮された最新型の施設で、老人でも腰を屈めずに作業出来、地元に10人の雇用を生むことで、地域に貢献したいとのこと。計画については充分説明したつもりではあったが、行き届かぬことがあったかもしれないが、地域の農業を守るためにも、是非ともご了承を頂きたいとのことであった。ところが残念なことに、彼の情熱や地域に対する配慮は、参加者には一顧だにされなかった。話がボイラーの件になった途端、参加者から次々と苦情が出されたのである。
数年前から稼働している既存の施設には、冬場の暖房用のボイラーがある。その稼働音は、数百メートル先の国道を走るトラックの音より小さく、耳を澄まさなければわからないほどだ。今回計画されている施設は面積にしてその3倍程度あり、当初の計画段階では、それを3基のボイラーで暖房するはずだった。会合では、それによる騒音の心配が訴えられて、ボイラーを1基に集約し、しかも集落から最も離れた角に設置するようにとの要求がなされた。会合では、その提案が暗黙のうちに了承され、更なる騒音の不安が並べられた。最も驚かされたものをひとつだけ紹介すると、既存の施設内で作業している家族の腰に付けた携帯ラジオの音がうるさいと、数十メートルも離れた家の人から苦情が出たことである。それより近いところにいる私には、耳を澄ましても聞こえないほどの音だ。それをもって騒音というなら、集落の住人は身動きすら許されないであろう。誰もが呆れるはずのその発言は、しかし、会合ではもっともらしく受け容れられたのである。
さらに「意見はないか」と問われたので、私はだいたい次のようになことを述べた。騒音について話し合われているが、いずれも怖れや憶測の域を出ず、一体新しい施設からどの程度の音が出るのか明確な根拠がない。そのなかで、3基のボイラーを1基に集約するという根本的な設計変更について、専門知識のない我々が議論するには無理がある。そもそも施設というものは、当初の設計通りに運用されて初めて最適なパフォーマンスが得られ、それを基準に販売計画や経営戦略が検討されるものであるので、それを変更すると必ずロスが出る。設計変更や設備工事費の増加の他に、ランニング・コストが上昇する。3基でまんべんなく暖房する設計の施設を、1基で暖房しようとすれば、3倍以上の出力の設備を要するであろうし、そうなれば燃料コストが計画より上がり、暖房のムラは製品ムラを生じて製品ロスが増える。例えば30年後の原油価格は今よりかなり上昇しているはずだから、燃料コストのロスが同率であっても金額が膨らんでしまう。これらは必ず将来の経営を圧迫するであろう。私には、この要求は次の世代にツケを回すものに見える。そこで、現在の施設から出ている騒音と、初期計画の施設から出るであろう騒音と、ボイラーを1基に集約した場合に出るであろう騒音とを数値化して比較し、たとえば各戸への防音窓の設置などによって、次の世代にツケを回さない方法がないかどうか検討してはどうかと提案したのである。
しかし、直後に示された参加者の反応に私は耳を疑った。曰く、「100年後のことなんか訊いてない (私は30年後と言ったのだが) 」曰く、「燃料費の上昇くらい経営者なら折り込んでいるはず (私は燃料費のロスのことを言ったのだが) 」・・・揚句の果てには「そんなことを言う人にはこの村にいて欲しくない」「夜は蛙の声しか聞こえないほどの良い環境なのに、それが解らない人が近くに住んでいるなんて」・・・私はそれ以上何を申し上げても参加者の態度を硬化させるだけだと悟って口をつぐんだ。
会合はうやむやのうちに閉会した。私は、田植えの段取りその他作業が山積していたので、先に出て昼食の準備をしていた。そこへ、ボイラー集約を提案した老人が来て、「私は君の言うことを聞いて驚いた。ここで暮らしたいのなら発言に気をつけた方が良い」という意味のことを言われ、出来るだけ冷静に対応したのだが、余りにも非礼な言動が続いたので逆上した。以後、集落の人とは道で会っても挨拶を返してもらえず、回覧板も回ってこなくなった。バイト先にも探りが入れられた。
もちろんこれは、独り勝ちを許さないムラの共在感覚がなせる陰湿な嫌がらせであり、会合は自治会という隠れ蓑によって誰も責任をとらずに済まそうとする方策であり、それを白日の下に晒して解決しようとする者は消そうとするのである。いいよ、その方がさっぱりする。しかし私は三年越しで獲得した新規就農者としての経過観察中の身、自治会というものは単なる任意団体であり、なんの法的根拠もないものであるはずなのだが、農地法の仕組みとして、農地の利用権の更新には自治会の了承を要することになっている。これが実際にどのように運用されるのか、田植えが終ったら調べてみなければなるまい。だからといって主張を曲げることはないけどね。
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