
Malicorne: Malicorne (LP, Editions Hexagone, No.883 004, 1975/ CD, Hexagone, No.193.652, re-issued)
Le Mariage Anglais
Le Garçon Jardinier
La Fille Aux Chansons (Marion S'Y Promène)
J'ai Vu Le Loup, Le Renard Et La Belette
Cortège De Noce
Branle / La Péronnelle
Le Galant Indiscret
Marions Les Roses (Chant De Quête)
Suite: Bourrée / Scottish-Valse
Le Bouvier
https://www.youtube.com/watch?v=_B2aMcbSrj8#t=38
ヨーロッパのトラディショナル音楽や、クラシック音楽のうちルネサンス初期までの古楽への関心は、私の場合中学生の頃に芽生えた。いまから考えれば情報のない当時、どんな経緯でそれらを知るに至ったかはまったく不明だが、当時、音楽を手分けして聴き合っていた友達からの影響で、イギリスやヨーロッパの所謂「プログレッシヴ・ロック」に深く傾倒していった時期があって、そんな音世界を育んだ土壌はどんなものだったのかという興味から、これらのジャンルにも親しむようになったのであろう。関心を深めていくうちに、日本にも古楽の演奏家たちが居られること、しかも、私の故郷にほど近い西宮市に本拠を置く「ダンスリー・ルネサンス合奏団」の存在を知ったのもその頃だった。コンサートに費やすカネはなかったので、なんとか友人を説き伏せてレコードを買わせ、それをテープにコピーしてもらって聴いていた。そのころは友人たちで集まって共同購入して、テープで回し聴きしていたものである。そんなテープが未だ私の手許にごまんとある。古くからの友人との間で良く話題になるのだが、その頃、つまり1970年代はレコード文化の絶頂期で、こんにち世紀の名盤と言われるアルバムが毎週のように発売されていたので、当然ひとりの子供の小遣いでどうなるものでもなかったからだ。
Malicorneはフランスのトラッド音楽のグループである。イギリスやドイツのプログレにはまっていた頃、フランス・スペイン・イタリアという国々のロックも紹介されていた。フランスもののなかにAngeというグループがあって、これがなかなかトラッドな演奏で印象深かった。その関心からMalicorneも我々の探索の俎上には上っていて、時々取り沙汰されていた。しかし輸入する手段が、当時は覚つかずに忘れ去ってしまったのである。ふたたびMalicorneを知るようになったのは、ぐっと近年になって古楽復興の機運が高まり様々な作品が世に出されるなかで、私はEnsemble Les Fin'Amoureusesというグループの「Marions les Roses」というアルバムを手にした。それは16世紀、最も隆盛を極めたオスマン・トルコに伝わっていったフランスの音楽を発掘して集めた作品集だったのだが、そのタイトル・チューンのメロディが頭を離れず、ちょうどその頃、とあるコンサートで知り合った奈良の「坂本古楽コンソート」の主催者、すなわち「ダンスリー・ルネサンス合奏団」の創立メンバーの一人に誘われて、彼等の演奏に客演する中で、資料とした渡された楽譜の中に偶然このタイトルを見つけた。すなわちトルコに残されていたフランスの16世紀の楽曲が、フランスでも残っていて、古楽の資料として日本にも来ていたことになる。ところが、この曲は何故か、クラシック畠から古楽をアプローチしてくる人の注意は惹かないらしく、演奏された例がなかった。Malicorneの名は知っていたが、この曲を演奏しているとは知らなかったし、そもそも1975年にレコードが出ただけで復刻もされていなかった。まあそんなわけで手に入れたいが忘れてしまったり、リストに上げてあるだけで探索を怠ったりして、聴きたいけれども知らない音源というものが、まだまだ手許に資料としてあって、これもそのうちの1曲、「坂本古楽コンソート」に客演するために家でリハーサルしていたとき、音源探索中にYouTubeを掛けっぱなしにしていて、聞き覚えのあるメロディが流れたことでつきとめたというわけである。さまざまな偶然が重なり、近づいたり離れたり、手をすり抜けていったり思わず降りかかってきたり、そんなことで見識も広がるし楽しみも増える。
さて肝心の音の方だが、古楽器も使われているが、電気も使われていて、そういう意味ではトラッドに属する。古い楽曲をテーマにとっているが、現代の身近な楽器で自分たちなりの表現をする、実に自然な演奏であるので、大変親しみやすい。コーラスに魂を揺さぶられる。しかしクラシック音楽にありがちな臭いはなく、特にバッキングはほぼロックである。クラシック的な美声ではないが、安定した、存在感のある、味わい深い声の重なり、それをサポートする、アコースティック楽器や電気、電子楽器、自由に絡まるパーカッション・・・古楽というジャンルは、何百年もの時を越えた名曲を、まったく自由に楽しむ贅沢がある。「プログレッシヴ・ロック」の世界から見た「トラッド」の世界に遊んだ人たちは、何十年も前にこんなにも生き生きとした演奏を残してくれていた。
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