
Aswad: Aswad (LP, Island, ILPS-9399, 1976)
I A Rebel Soul
Can't Stand The Pressure
Ethiopian Rhapsody
Natural Progression
Back To Africa
Red Up
Ire Woman
Concrete Slaveship
Aswadは、1975年にロンドンのジャマイカ人コミュニティを拠点に結成されたグループ。このデビュー・アルバムは、のちの彼等の演奏とは全く異なり極めて素朴。声も演奏も初々しく、仲間内でバンド始めました・・・という空気がありあり。リズムは「one drop」といって、1拍目にアクセントのないもので、創世記のレゲエ、ウェィラーズの初期の頃を彷彿とさせるものである。私にとってはこのリズム感こそが、レゲエとの鮮烈な出会いであった。タイトルも歌詞の内容も非常にメッセージ性が高く、ストレートな表現であるので、そのままつなげばレゲエのおおよそが理解出来るほどである。まったくこなれていない分、気持が直接伝わってくる名盤といえるだろう。CDで常に復刻されているようなので、入手は簡単。黎明期のブリティッシュ・レゲエとしては、是非聴いて欲しい一枚である。
私ごときがレゲエを解説するのもなんだが、ごく簡潔に試みてみよう。事実誤認があれば、ご指摘頂きたい。レゲエが生まれた要因は、本国ジャマイカがイギリス統治から独立したあとの、いわゆる先進国との経済的格差が深刻化して社会問題になり、被差別意識を、全世界の黒人は解放されてアフリカに帰るべきだという思想によって解消しようとしたことにあり、それを音楽で表現したものが「レゲエ」であるといえる。ジャマイカがイギリスから独立する前後、今日に至るまで世界中にジャマイカ人は移住していったが、特にロンドンにおいては強いコミュニティが生まれ、それがブリティッシュ・レゲエの基礎を築いた。彼等はジャマイカのレゲエと連動して広がっていくが、旧宗主国に移住したことが原因で、差別意識のただ中で居住することとなり、独特の緊迫した曲調を生んだ。
レゲエの思想的背景に「ラスタファリズム」があり、これは、ジャマイカの国民的英雄であり黒人解放運動の指導者であったMarcus Garvey (1887-1940) の予言にあった黒人の救世主について、その後エチオピアに現れた皇帝Haile Selassie 1世をそれと見做し、全世界の黒人は連帯してエチオピアに帰国しようとする運動のことである。Haile Selassie 1世の諸侯時代の名をRas (諸侯) Tafari Makkonenといい、これがRastafarismの語源となった。よくレゲエの歌詞の中にイスラエルへの連帯が謳われているが、これは現実の国家としてのイスラエルを指しているのではなく、ジャマイカやロンドンを堕落の象徴「バビロン」と見做し、約束の土地「ザイオン (Zion) 」へ回帰するというシナリオが、旧約聖書「出エジプト記」以降にある、モーゼが虐げられたユダヤ人を救出してイスラエルに到達せずに果てたこと、に基づいて生まれたことによる。従って、ユダヤ人がいうところの「シオニズム (Zionism) 」とは全く関係がない。レゲエで言うところの「約束の土地」は、あくまでエチオピアであるので、それを信じてエチオピアに移住したジャマイカ人も少数ある。しかしレゲエが生まれた当時、まだまだ世界は広くて情報がなかったため、ジャマイカ人たちは自らの苦痛を、架空のエチオピアに帰還するというシナリオを信じることによって和らげたものと思われる。彼等の唱える「Jah-Rastafar-I」は、神=エチオピア皇帝=私を直接結合するものであり、Haile Selassie 1世を神と見做し、そこへ至る道のひとつとして、マリファナによる幻覚作用が採られたことなどから、「ラスタファリズム」は一種の宗教的性格を帯びるようになるが、全体としては思想運動と考えられる。このような大雑把な理解を踏んだうえで曲名リストを見てもらえれば、少し彼等に近づけるような気もする。
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