
Madness: One Step Beyond... (LP, Stiff Records, SEEZ 17, 1979, UK)
One Step Beyond...
My Girl
Night Boat To Cairo
Believe Me
Land Of Hope & Glory
The Prince
Tarzan's Nuts
In The Middle Of The Night
Bed & Breakfast
Razor Blade Alley
Swan Lake
Rockin' In Ab
Mummy's Boy
Madness
Chipmunks Are Go!
Madnessをブリティッシュ・レゲエの文脈で語ることが適当かどうかは解らない。なぜなら、人脈も民族的にも、音楽の系譜からしてもレゲエ・ミュージックとは流れが全く異なるからだ。しかし1970年代末の当時のロンドンでは、モッズのリバイバル、パンク・ムーブメントとともに、ルード・ロックが動き始めていた。その前はといえば、全く古き良き懐かしき平和なハード・ロックとプログレの全盛期だったのだ。過剰装飾の豪華絢爛精神礼賛音楽の絵に描いた餅がバンクしてからは、しばらく音楽シーンは空虚だった。そこへ彗星のごとくSex Pistolsが現れて瞬く間に消えていった。パンクは1970年代の終りを、つまりなんとなくぼんやりと前途が明るいような気がしていた世の中の風潮が虚構だったことを、白日のストリートに引きずり出した。Sex Pistolsが短命で消えたのと同じように、モッズの復活の気運とやらもすぐに消え、髪はどんどん短くなって終に剃りあげられ、スキンヘッズになった。また別の一部の若者はルード・ボーイズと呼ばれた。そのなかでパンクは大きく世界に広がった。これら4つのムーブメントは、ほぼ同時に発生して、ロンドンに新しいサブ・カルチャーを生んだ。またこの頃から、ムーブメントの回転が早くなる。彼等は貧しい家庭に育った者が多く、それぞれにそれとわかるファッションをし、アメリカのソウルやブルース、ファンクなど、そしてジャマイカのスカやレゲエを愛聴した。一部は互いに反目し、或いは政治活動に近づく者もあった。そのうちルーディーズと呼ばれたグループのミュージシャンたちは、ロンドンの旧英領カリブ海出身者のコミュニティとは別に、少し北のWest Midlands州を拠点に音楽活動を始めた。2 tone recordsというレーベルである。ここからThe Specials・Madness・The Selecterという3つのスカ・バンドが生まれ、明らかにパンクとは異なる次の大きな潮流が生まれた。
したがって彼等はレゲエが精神的ルーツとするラスタファリズムやスカの生まれたジャマイカとはなんの関係もない。むしろパンクや、その後の潮流となるオルタナ系の音楽に近接している。共通していたのは、それが人種差別であるにしろ、経済格差であるにしろ、不当な抑圧に対する反抗という精神性である。つまり、ロックが置き忘れてしまったものだった。しかし状況は1980年代、彼等は当然ロンドンのジャマイカ人たちに共感したであろう。スカを模倣し、自分たちのスタイルとして身につけ、その後に起ったレゲエ・ムーブメントを同時体験して、やがてダブの手法まで取り入れることになる。
これらは1980年代前半に、一斉に世界中に起った。日本でも、やや遅れてこれらの音楽が紹介されて火がついた。私のバンド活動が外に向けて始まったのもこの頃であり、数年遅れでとはいえ、彼等と同じものを聴いて育ち、バンドを組み、表現し、やがて外へ出て行くことになる。レゲエもやったしスカもやったしオルタナ的な音も出してみた。それは、努力すれば報われるなどという1970年代的惰眠から人々をたたき起こし、多くの場合努力しても報われず、そのエネルギーは一部の既得権益が効率的に搾取出来るように、社会は巧みに仕組まれているのだということを解らせようと試みるものだった。社会に漠然とあった不安は具体的な危機感となり、一部はそこから逃げ切るために社会にバブルを仕掛けた。社会は全く理由の解らぬ狂乱に陥って、誰もが振り落とされまいとしがみつかざるを得なかった。奈落の底は我々の下に大きく大きく口を開けていた。我々は落ちる早さよりも早く駆け上がらなければならなかった。下を見なかったのはそのためだ。しかし現実は、バブルがはじけた後にはっきりと見えた。今は底へ落ちていく途中である。
Madnessの音は、それまでのハード・ロックとプログレの過剰装飾豪華絢爛精神礼賛音楽と全く反対に、たった2分でスカっと終る。実にパワフルで単純明快で痛快というやつだ。これを聴いてプログレのくびきに繋がれていた私はその鎖を噛みきった。しかしやはりMadnessをここで語るならば、本来ならばSex Pistolsについて、従って当然P.I.L.の"Metal Box"について、また波及効果に言及するならば、当然King Sunny Adeについて語らなければならなくなる。そうなるともはや複雑過ぎて支離滅裂になり、しかしそれこそまさにポップ・ミュージックのポップ・ミュージックたる所以なのだが、ブリティッシュ・レゲエについて書きたいことは山ほどあるが、Matumbi・Steel Pulse・Black Slate・Prince Hammer・・・いろいろエエのん持ってたんやけどね、そのあたりはごっそり震災でヤラれてしもてるんで正しいデータを提示出来ひんから、一思いに絶ち切ってジャマイカへ飛ぼう。
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