Tabou Combo: The Masters (LP, Mini Records, MRS 1050, 1975, US)
Inflacion
Lovely Mama
Loneliness
Oh! La La
Spitfire
T.C.E. (Tabou Combo Experience)
Wrong Number
http://www.taboucombo.com
Compasの魅力はなんだろうと、よく考える。私がこれらを聴きはじめたのは、大学に通いはじめたころ、バイトでカネがある程度入ってくるようになって、レコードがより自由に買えるようになったころである。高校時代までは、バンドといってもせいぜい音楽室から出られなかったものが、いよいよ外に向けて活動出来るようになった。いろんなミュージシャンに会い、いろんな音楽の話を聞き、視野が広がった。もうありきたりなロックには飽き飽きしていた。しかしパンクはあまりにも無味乾燥なものに思われた。ジャズは敷居が高過ぎた。ブルースは暗過ぎるように思われた。そのころは、まだ「ワールドミュージック」という言葉はなかった。小泉文夫の「世界の民族音楽」をひたすら録音していた。アフリカに大いにそそられていたが、実際紹介される音源には馴染めなかった。レゲエへの熱狂も一過性のものに終り、南へと興味は向きつつあったものの、いきなり「さあ踊りましょう」なんて能天気な音楽を、私は嫌悪した。踊るに足る音楽、もともとヨーロッパやイギリスの音楽にどっぷり浸かって生きていた精神が、踊りたいと思えるような、深みがあって、なおかつ躍動的な音楽を求めて遍歴は続く。そんなことを漠然と思い描いている時に、ラテン音楽の一種として入ってきたのがハイチのCompasだった。声とリズム、曲全体から来る空気感は、明らかにアフリカのものである。しかし、どこか海の匂いがした。おおまかにはフランス風の優美さ、そしてフラメンコのメロディに現れるスペイン風の物悲しさ、それはアジア独特の哀感であった。そしてアフリカ的な重さと、カリブの明るい躍動・・・いま思い起こせば、これらが見事に調和した音楽など、ほかに存在しないと思う。ハイチで偶然に融合されたものだったのだ。そこで初めて出会ったもののひとつが、この「Tabou Combo」だった。ロックの泥沼から這い上がってきた私の耳は、新しい出口を求めつつも、やはりロック・ギターをよりどころとして求めていた・・・
「Tabou Combo」はギター・バンドである。それまでの、ホーン・セクションの入ったゴージャスなダンス・ミュージックとしてのCompasにロックの新風を吹き込んだ恐らく最初のバンドであり、その後あらゆるブラック・ミュージックのエッセンスを取り入れて見事に消化し、「Compasの大使」と呼ばれるほどハイチを代表するグループになった。現在も活動中である。現在は穏やかなサロン・ミュージックを演奏するオルケストルになったが、初期はホーン・セクションを敢えて廃し、ギターを前面に出した。とてつもないスピード感と迫力である。そんな演奏が聴ける彼等の初期6作の詳細を記す。いずれも何度かCD化されているが、入手困難なものと注意すべきもののみデータを記録しておく。他はタイトルで検索すれば出る。
Tabou Combo: Haïti / Ya Patia (LP, IBO Records, ILP 146, 1969, FR/ CD, Sonodisc, CD IBO 146, 1996, FR)
Tabou Combo: A la Canne a Sucre (LP, Mini Records, SU 100, 1972, US)
Tabou Combo: Respect… (LP, Mini Records, MRS 1039, 1973, US/ CD as "Hoola-Hoop Compas", P-Vine, PCD-2528, 1990, JP*)
Tabou Combo: 8th. Sacrement (LP, Mini Records, MRS 1044, 1974, US/ CD as "New York City", Unidisc, SPLK-7082, 1994, CA)
Tabou Combo: The Masters (LP, Mini Records, MRS 1050, 1975, US)
Tabou Combo: Indestructible… (LP, Mini Records, MRS 1056, 1976, US/ CD as "Hoola-Hoop Compas", P-Vine, PCD-2528, 1990, JP*)
*…「Hoola-Hoop Compas」(CD, P-Vine, PCD-2528, 1990, JP) として復刻されているCDは、「Respect…」全曲と「Indestructible…」7曲のうち5曲しか収録されていないので、完全なコレクションを捜す場合は要注意。
上記リストのうち、特にお奨めしたいのは「Respect…」以下の4作である。この作品から明らかにロック的になる。その次の「8th. Sacrement」は、彼等が世界を舞台に活躍するきっかけとなった名曲"New York City"を含む (疑似?) ライブ・アルバム。「The Masters」は、その勢いをそのままに、演奏やアレンジが磨き上げられて、心・技・体すべてが充実した彼等の最高傑作。ギター・バンド、ロック・バンドとしての集大成になっている。特に冒頭の "Inflacion" の、いきなり疾走するストレートな演奏がすさまじい。ドラマーは、もはやクラッシュ・シンバルのミュートではなく、いきなりスネアの連打で始めている。全編、まさにハイチの疾走。文句なしのアルバムである。その後、彼等の結成10周年記念アルバム「L'an X (1977) 」では大々的にホーン・セクションがフィーチャーされ、全く別物のバンドになる。とはいえ、1980年作、通算10枚目の「You, You, You」まではロック・バンドとしての勢いが強く感じられ、ちなみにこのアルバムで"New York City"をホーン入りで録りなおしている。この演奏もまた別の意味で良い。しかし、それ以降はマンネリズムに陥り、ご多分に漏れずデジタル楽器やZoukを取り入れて演奏が平板になり、やがてトゲも取れて普通のバンドになって行く。現在の彼等は、かつて自分たちが打ち破ってきたサロン・ミュージックの中に、肩までどっぷり浸かっているようにさえ思われる。それが悪いとは言わないし、その良さも解る。しかし私としては、やはり「Tabou Combo」はギター・バンドであってほしいのだ。このようなギターとドラムの感触は、まさにコンゴの「Soucous」(日本で所謂「リンガラ・ポップス」) に通じるものであり、恐らく相互に影響しあったのであろう。ちなみになんと彼等がリンガラ語で歌っている曲を見つけたので、最後にリンクしておきたい。
https://www.youtube.com/watch?v=PUPnEv2-ljk
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