2015年04月03日

20150301 D.P. Express

KIF_3920.JPG

D.P. Express: David (LP, Superstar Records, SUP-111, 1979-81?, Haiti)

É,É,É,É
Corigé

David
Ensem', Ensem'
Cèso

 「D.P. Express」の通算5枚目、Mini Records傘下、ハイチのSuperstar Recordsからのリリースで、番号からして1979-81年の作品と思われる。しっかし・・・16人も横一列に並んで、モニタもないステージで、さぞかし互いの音、聞こえにくかったやろなあ・・・いやいや、「D.P. Express」は、「Tabou Combo」によって引き起こされたハイチのギター・バンド・ブームに呼応して1970年に生まれた「Les Difficiles de Petion Ville」を母体とし、そこから分離した「Les Gypsies de Petion Ville」、さらにそこから「Scorpio Universel」と、この「D.P. Express」に分裂する。ちなみに「D.P. …」は「Les Difficiles de Petion Ville」の略。人脈の重要性や話題性からすると、蠍軍団に軍配が上がるのかも知れないが、実は私の好みはこちらである。なぜなら、蠍軍団が新しい世代を意識しつつも比較的ゴージャスなホーン・アンサンブルを重要視していたのに対して、このバンドは、ホーン・セクションを用いながらも、ギター主導型のバンドであったからである。これでもかこれでもかと畳みかけてくるような重層的フレーズ、失速寸前のスロウ・テンポな演奏に、リード・ヴォーカルのハスキー・ヴォイスがかぶさる、なんとも言い知れぬ良い雰囲気を持っている。豪快・厳か・重量級・パワー全開・単刀直入・・・なんていうんでしょうね・・・特にこの5枚目が聞き応えあり、A面1曲目からエンジン全開で暑さを以て暑さを凌ぐ心意気、2曲目でハイチ風に粘ったサルサ・・・これがまたエエんよね、キューバやプエルト・リコでは決して出ない、ましてやニューヨークでなんかムリムリ、ハイチでなければ出ない音、B面に入ると急にテンポ・ダウンしたスロウなコンパが2曲続き、最後はメレンゲ風の高速カルナヴァルが車止め突き破って・・・あーあ、レコード盤がイテもうとるだけか・・・
 「David」は、1979年にイスパニョーラ島をCategory 5 (日本でいう「猛烈な」勢力) で直撃し、アメリカ東海岸に沿って北上した「ハリケーン・ディビッド」の名に因む。ちなみに西アフリカの大西洋上にある島国Cabo Verde近海から発生する低気圧が西に進んでカリブ海でハリケーンになるケースが多く、これを「カボ・ヴェルデ型」という。Cabo Verdeはアフリカから新大陸へ黒人奴隷を輸送する集積地であった。それはともかく、このハリケーンはイスパニョーラ島で2千人以上の死者を出し、プエルト・リコ、キューバ、アメリカに甚大な被害を及ぼした。言葉が解ればそのへんの事情が理解出来るのかも知れない。ジャケットからも、裏ジャケのカーニバルの写真からも、なにか不屈のハイチ人魂を感じる。
 ここでCompasのリズムについてちょっとだけ。Compas Directの初期、MéringueやCadenceの演奏には、基本的にドラム・セットは入らず、細かく高く鋭い音でリズムを刻む役割はギロであり、しかもリズムはスクゥエアであった。それが1960年代に入ると、ルンバ・クラーベでいう「3-2」の前半部分だけをとった2拍子になる。このとり方は世界中にあるのだが、ハイチの場合は、直接的にはキューバ発祥である。黒人がやるものだから、黒人的にまろやかになり、むしろコンゴの「Soucous」(日本で所謂「リンガラ・ポップス」) との相性が抜群に良いので、ギターその他の奏法に互換性がある。リズムの骨格を担うのは、とりあえずドラマーであるが、リズムをキープするのは一般的にハイハットではなく、クラッシュ・シンバルをハイハットの近くにセットして、それを片手でミュートしながら叩くのが、世界の他に例を見ない大きな特長である。ハイハットを使えば両手が使えるのに、またハイハットを使わないのなら邪魔になるから外せば良いものを、なぜかそうせずに、邪魔になるハイハット越しにシンバルを片手でミュートしてハイハットのように刻む。しかもそのシンバルたるや、スプラッシュなどの小口径のものではなく、16インチ以上あるような、結構まともにクラッシュ・シンバルを使う。手に汗もかくであろうし、演奏が終ったあとのシンバルの手入れを心配するのだが、それでもそうしなければならない理由があるのだろう。とにかくこれがCompasのリズムの特長なのである。
 「D.P. Express」の演奏は、これは紛れもないハイチ風の演奏なのだが、Compasはその後1980年代後半になって、同じリズム・アクセントのまま、Zoukのニュアンスを取り入れた演奏が流行するようになる。同時にデジタル楽器が流入し、ほとんど全てのバンドのホーン・セクションやストリングスが多くこれに取って替わられ、音楽そのものが大幅に陳腐化した。これは世界中で同時に起った現象であり、デジタル楽器とCDの普及は、むしろ音楽全体にとっては粗製乱発の傾向が顕著になった。無論、全てがそうだったとは言わない。
 さてハイチの音楽シーンも離合集散を繰り返して発展して行くのであるが、母体となったバンドも多く現存している。これはハイチ人の音楽文化の高さを示すものであって、下は「Les Gypsies de Petion Ville」の2001年New Yorkでのライブである。このユルさ、この黒さ、充満する熱気と体臭・・・これが普段着のハイチの夜会なのでしょう。堪りません。以上を以て1980年前後に隆盛を極めたハイチのモダン・コンパについては終る。結論としては、1970年代後半から1980年代前半にかけてのものを集められれば大きな間違いはないと思う。まあ世界中のポピュラー音楽がその傾向にあるんやけどね。なんでやろね。次回からは、もちょっと古い音源へ行きましょか・・・

https://www.youtube.com/watch?v=mx3nf-RcEiw


posted by jakiswede at 00:26| Comment(0) | 変態的音楽遍歴 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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