病床の友を見舞いに急ぎ旅、しかし赤貧、芋を洗うがごとき生活のため、まともな切符を買えないので、現地でフリー・タイムになるパック・ツアーのバラ売りを、ちょっと ?? なルートから仕入れて、なんども白いアヒルに抜かされながら行く。
幸い、この土日は雨なので家におってもしゃあない。ちょびっと心の重い旅ではあるが、まあ珍しい景色でも眺めながら、そろりそろりと参ろう・・・
ひとはいつ死ぬかわからんのである。今年は、後半になって既に親しかった友人が二人も旅立った。そんなに現世がいやか、と、思うほどであった。まあ、嫌なことも多いが、まだまだ捨てたもんじゃないよ、と、思い直すと、いやいや別に現世がいやで旅立ったわけではない、どうしようもない巡り合わせで旅立たざるを得なかったのだ、と、いう友の声が聞こえる。いずれにせよ、私も、明日死ぬか、一週間後に死ぬか、一ヶ月後に死ぬか、予告なく死ぬのか、充分に予告されて死ぬのか、では、余命一ヶ月と宣告された場合、最優先に取り組むべきはなんなのか・・・
過去に多くの友を失ったのだが、私の友ゆえいずれ不摂生の報いであって、死ぬ前には全身に癌が蔓延って手の付けられぬ状態になるのである。したがって末期は所謂緩和療法で、要するに麻薬漬けになる。あれほどヤバい橋を何度も行きつ戻りつしてようやく手に入れていたものを、こんなまっしろな空間で、望んでもいないのに潤沢に体内に注入される。本人は嬉しくも何ともない。そして、あれほど明晰であった頭脳が、見る影もなく妄想に蝕まれていくのを見ることになる。我々のようなカスミを食って生きている人種にとっては、神経からやられるのは地獄である。余命が限られているというのに、神経をシャブ浸けにされて死への坂道を転がり落ちる。痛くもなんともない。友は何かを語りかけようとする。しかし意味することが解らない。こちらが解しかねているのを見て、寂しそうに諦める。それを見るのは何より辛い。なぜなら、心を分かち合った友だから。

我々は何度も生きることを試みる。20年も前に解散したバンド仲間であるから、一番「効く」のは過去のライブ音源を肴に、その演奏をこき下ろすことだ。
「うるっさいなお前のギター・・・」
「なに言うてんねんお前が走るからこうなるんや」
「人のせいにすな、細かいとこつまずくから全体たてなおさなしゃあないやんけ」
「なんでここでテンポ落とすねん」
「お前がソロ入れるから落とせ言うといて本番なったら忘れとんやんけ」
「ほななんかリフ入れて隠さんかい」
「そない自分の都合のええようにばっかり行くかいや、お前のために伴奏しとんちゃうぞ」
・・・とばかりに、まあ20年以上たっても自分らの演奏を聞くと、ライブ直後の楽屋の喧嘩が再現されてしまうのである。おかげで麻薬漬けで神経の飛んでいってた友も、やがて現実に舞い降りて論争に加わり、揚句の果てには、全員楽器を持ちだして20年ぶりの再々結成セッションとなった。奇跡である。
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