2016年02月10日

20160113 内なる羅甸的なもの

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Fania All Stars: Our Latin Thing (2LPs, Sonodisc/ Fania Records, SLP 04311/12, 1972, FR)


A1 Introduction (Cocinando) 4:48

A2 Quitate Tu 10:30

B1 Anacaona

  Vocals – Cheo Feliciano  6:50

B2 Ponte Duro 10:10


C1 Abran Paso (Part 1) / Abran Paso (Part II)

  Vocals – Ismael Miranda  2:20

C2 Lamento De Un Guajiro

  Vocals – Ismael Miranda  5:35

C3 Descarga Fania

  Vocals – Adalberto Santiago  8:40

D1 Aora Vengo Yo

  Vocals – Bobby Cruz  4:58

D2 Estrellas De Fania 8:35

D3 Closing Of Movie (Introduction Theme)


 Fania All Starsとは、サルサの中心的なレーベルFania Recordsに所属するアーティストから選抜された、プロモーション用のバンドというべきものである。従って、メンバーはそれぞれ自分のバンドを或いは所属するバンドを持っている。また、レーベル所属のミュージシャンが混成して、レーベルが売り出す歌手のバッキングをして発表された作品も多く、完全に固定されたメンバー構成を持っているわけではない。主要メンバーはだいたい決まっていて、創設者であるJohnny Pacheco以下、歌手としてはCelia Cruz, Hector Lavoe, Ismael Miranda, Cheo Feliciano, Ismael QuintanaSantos Colonなど、私の職業柄、打楽器陣としては、コンガのRay Barretto、ティンバレスのNickie Marrerro、ボンゴのRobereto Roena・・・ホーン・セクションまで書いてられへんし大好きなトレス・クァトロ奏者のYomo Torro・・・すみません以下割愛。

 Fania All Stars単独のアルバムというものは少なく、看板歌手のバッキング・オーケストラとしての作品が多い。しかしそれらも布陣が実質的にほぼFania All Starsであっても、名義はミュージシャン個々の名前になっていることが多い。従ってFania All Starsそのものを紹介できる作品は限られてくる。

 結成は1971年である。Fania Recordsの創立が1963年であるから、約8年の間に練り上げられたサルサ・ソースが一大オーケストラとして開花したものといえよう。創立者はレーベルの創立者と同じくフルート奏者のJohnny Pacheco、総合プロデューサーもレーベル創立者のJerry Masucciである。結成の翌年に”Live at the Cheeter””Our Latin Thing””Live at the REd Garter”というライブ盤それぞれ2枚ずつ合計6発の祝砲を上げている。結成いきなりアクセル全開で、いずれもその凄まじい熱気というか、暑苦しさがモロに伝わってくる。Fania All Starsを紹介するなら、やはりこの三部作に尽きるだろう。

 キューバ音楽の最後の方でも触れたことだが、サルサは、キューバに革命が起こって、その後アメリカとの関係が悪化したために、在米キューバ人が帰国せざるを得なくなったことによって、アメリカに根付きつつあったキューバ音楽の形式「Son」を演奏できるミュージシャンが不足したことから、音楽的に近かったPuerto RicoのミュージシャンたちがSonを演奏しはじめたことが起源である。その後、Sonを演奏するPuerto Rico人たちと、多くはSoulBluesJazzなどアメリカ黒人たちの音楽、それにRockやクラシック音楽などとの接触があって、10年ほどの間にそれらが融合して独特のソースが出来上がった。それをスペイン語で「Salsa」というわけである。

 このような成り立ちを持っているので、Salsaという音楽は、基本的に即興ないし「descarga」と呼ばれるセッションに重きを置いている。従って上記三部作の内容のほとんどは、特定の楽曲の体裁を有しない即興演奏にタイトルをつけたものであって、いわゆる「歌もの」のサルサが盛んになるのはもう少し後になってからになる。ここでは、あるテーマやモード、或いはコード展開に基づき、それを繰り返しながら、リード楽器や歌手、或いは打楽器などがパフォーマンスしていく合奏の妙味が味わいどころとなる。そうした遊びから曲が生まれ、その集大成として「看板歌手 + ファニア・オールスターズ」という企画ものアルバムが量産される結果となった。実際、ここに紹介する”Our Latin Thing”でも、LP2枚中、曲らしい曲は、”Anacaona””Abran Paso”2曲くらいのもので、ほかはほとんど即興演奏または即興詩の世界となる。きちんと整った緻密なアレンジで演奏される美しいサルサは、このような果てしない即興遊びの積み重ねの上に成り立った。

 さて、三部作のうち紹介したいのが、この”Our Latin Thing”なのだが、これは同タイトルのドキュメンタリー映画のサウンド・トラックを編集したものであって、当時はそのフィルムを拝むことができなかったから音だけ聞いていたのである。これは是非、本編を見てもらいたい。私は、もう映像のない音だけの世界で、ご多聞にもれずソーゾーというか妄想を膨らませてしまったので、映像とのギャップにただただ途方にくれるだけなのだが、免疫のない方は是非映像を見て当時のニューヨークの喧騒を味わってもらいたいと思う。


https://www.youtube.com/watch?v=egbHXTLGT9s

posted by jakiswede at 12:06| Comment(0) | 変態的音楽遍歴 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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