Uyghur-Pamir 2017.05.11.4 Kerya
身の危険は全く感じなかった。私は1991年に当時のザイール奥地Ileboの街で賄賂欲しさに入境料をとるイミグレに五日間ほど投獄されたことがある。あの時と比べたら、まず命まで取る気は無いなと感じた。なにも悪いことはしていないので、おとなしく逆らわずについて行くしかないのだこういう場合。車は5分ほど走って警察本部と思しき割と立派な建物に入ってゆき、正面玄関から通された。そこで他のウイグル人とは別の小さな会議室のような部屋に連れて行かれ、護送車に乗っていたウイグル人警官のひとりとともに椅子に座って待った。やがて荒々しくドアを開けて入ってきた漢人の警官に、ウイグル人警官がなにかを説明しようとしたが、漢人は彼を押しのけて直接私にまくし立ててきた。私は例の紙片を取り出して中国語がわからないと身振りで示したのだが、彼はあくまでも中国語で激しく怒鳴る。なにかにイラついているのは明らかで、こういう場合、恐れたり怯んだり、相手の調子に飲まれたりしない方が良い。だってわかんないんだもん。私は落ち着き払ってその紙をテーブルに置き、指で「わからない」という部分をトントンと叩いた。彼の怒りは頂点に達し、テーブルを激しく叩いて叫びはじめたが、どうしようもないので、私は彼の目をじっと見て、ただ座っていた。無表情に。彼もお手上げだという身振りをして黙ったときを見計らって、「English, OK ??」と尋ねてみた。すると彼はしばらく考え込んでから、どこかへ電話をかけた。10分ほど沈黙の時が流れ、やがて、もう少しマシな感じの警官が現れ、なんとにこやかに私に握手を求めてきた。私は立ち上がって敬意を評し、一部始終を手短に英語で説明した。彼は私のパスポートを持っていた。それをしばらく眺めてから、「OK, we are sorry, you can go out.」とわかりやすく言った。別室に案内され、テーブルに広げられてあった荷物をまとめ、私は解放された。
・・・が・・・おい・・・ここで解放かよ !? もとの場所まで連れてけやお前ら、と抗議しようにも扉は閉められて広々としたロビーに誰もおらず、仕方なく通りに出た。まあ小さな街なので、すぐにアーケード街を見つけてその反対側から中に入れたが・・・とりあえずこの中でしばらく休憩しようと思って、休める場所を探したのだが、そんな店も設備もないのだ。そう、少なくとも今回の旅で訪れた中国の街には、食べるとか買い物をするとか宿泊するとか、なにかをする場所はあるのだが、何もせずにぼんやりできる場所というものがなかった。美しい公園はいたるところで見かけたが、それらは高い柵に囲まれて施錠されていた。仕方なく、店で飲み物を買って、縁石に座って休んだ。
街に着いていきなり身柄拘束・・・この事態を冷静に考えてみた。ホータンでも垣間見たのだが、検問は頻繁に行われている。街路の歩道は柵で仕切られていて、一辻ごとにテントを張った検問所へ誘導されるようになっている。柵の周辺には等間隔で警官が銃を持って立っているので、柵を乗り越えて検問を避けることはできない。そこで男女別にボディチェックがある。検問している警官のほとんどはウイグル人である。したがってウイグル人がウイグル人を誰何していることになる。拘束されている人を見ることも珍しくない。通行人は、何事もないかのようにその脇を通り抜けていく。拘束された人が抵抗したり、警官と口論になっているのを見たことはない。検問所に詰めている警官と、護送する警官は、明らかに役割が分担されている。拘束されるとパスポートを取り上げられるが、その前に詰所でノートに名前と番号を控えられる。しかし、彼らのほとんどはおそらく外国人のパスポートというものを見たことがないか、あるいはローマ字を読めないらしく、私の場合、きまって前回旅行したブラジルのビザ (顔写真付きなので) の番号を書き写しはじめるのがほとんどだった。そのたびに私はパスポートの2ページ目を開いて、彼 (女) の書き写すべき番号を指し示してやらねばならなかった。そんなわけで、初めて、そして最も頻繁にコミュニケーションをとったウイグル人は、皮肉なことに、頻繁に私を拘束する警官たちということになった。
まあだいたいわかった。一ブロックごとに検問があって、運が悪けりゃ拘束される。しかし無実なので解放されるが、その時間が勿体無いし気分も悪い。この街に一泊すべきか、とっととホータンに戻るべきか・・・とりあえずアーケードを出て、南の老城区のあるはずのあたりを散策することから始めることにした。中心部の南側に広がっているはずの旧市街は、その多くが取り壊されて廃墟となり、順次更地にされて、高層マンションが建設される途上にあった。旧居住区に隣接していたと思しき農地も宅地造成され、その遠方に未開発の農地が望まれ、小麦が花を咲かせていた。そこで踵を返し、街の北側を見ることにした。
旧市街の状態としては、街の北側の方が良く保存されていた。しかし、居住区は頑強な鉄門で閉ざされ、そこに検問所があって、外国人は通してくれない・・・と・・・表通りに面した商店の裏の路地から人がしげく出入りしているので行って見ると、なんと、開いた鉄門があったので、素早く中に入ってみた。寂れた感じだったが、まごうことなきウイグル的風景がそこに広がっていた。老城区の内側というべきか、市街地の外側というべきか、要するに鉄柵の向こう側にはブロックごとの検問所はない。私はウイグル帽をかぶり、ただブラブラと歩いた。やがて農地が始まり、道は延々と深みにはまっていく様子になった。日が傾きはじめていたので戻ることにした。同じ門から何食わぬ顔で街に入ると急に腹が減ったので、早速ウイグル料理のラグメンを食べてみることにした。要するに、手打ちうどんに具沢山のトマトソースがかけてある、あるいはスパゲティ・マルゲリータ、日本でいうナポリタンの原型と思えば良い。大変うまかった。
散策を続ける。西側へ行くと、やがて村の風情になり、農地が広がっている。門で閉ざされていないウイグル人居住区があって、そこへ入って行くと、水路やブドウの柵の連なる美しい街角に出た。家の軒先に縁側を出して涼んでいる家族があって、軽く会釈すると心が通じるようだったので、近づいて身振り手振りで「ここは美しいところですね」と伝えようとした。彼らは喜んでくれたが、明らかに私を警戒しているそぶりだった。邪魔してもなんだからと思って側を離れ、しばらく行ってから振り返ると、彼らは警官に取り囲まれていた・・・ううむ・・・やりにくい。
大通りへ戻ってそれを越えると、一部が美しくリノベーションされ、まるでテーマパークの様になった一角に出た。その入口に案内板があり、英語で解説が書かれていたので、私は近づいて文面を読もうとしたのだが、そのときに二度目の拘束を受けた。おいおい、まだ「Welcome…」から始まる文を読み始めたとこやで。もうちょいぼちぼちやってえな。今回は詰所で解放されたが、前回私を拘束した警察官とは服装が異なっていた。注意深く観察すると、「特警」・「武警」・「公安」とそれぞれ書かれた制服を着た警察官が街じゅうに展開しており、それらは別々に行動しているようだった。前回は「特警」、今回は「武警」である。英語は通じない。漢字も読んでくれない。今回は、警官がパスポート・ナンバーを本署 (??) に伝えただけで解放された。つまり、外国人の動向を把握しているようである。
そんなことに怯むような私ではない。テーマパークとはいえ、ウイグル人の居宅を丁寧に保存した空間は見所である。しかも、まだケリヤ川も見ていないのだ。私はこの街に宿泊することにし、宿探しを始めた。しかし大通りに面した安宿のおおくは、すでに開発のために大量に投入されている漢人労働者の宿泊所としてほぼ満室の状態だったが、空いている「宾馆」や「招待所」などは、どこも外国人を泊めてくれない。泊めるか泊めないかを簡単に区別できるように、外国人のパスポート番号は宿帳に記入できないようにしてある。つまり中国人民のIDカードの番号とは桁数が異なるため、これを記入すれば一目瞭然で違反がわかるようになっている。違反を厳しく捜査されるというよりも、わずかな利益のために面倒ごとに巻き込まれては叶わないという、賢明な事なかれ主義が蔓延することによって、外国人を一定の宿泊施設に集約して監視しやすくしている。中国政府の狡猾なやり方を垣間見る思いがした。仕方なく、街で唯一の外国人宿泊可能な、「于田天萌コ隆酒店」という、無駄にゴージャスなビジネス・ホテルに、289元 (約5300円) も払って宿泊することになった。
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