2017年05月15日

20170515 Kashgar

Uyghur-Pamir 2017.05.15.2 Kashgar

 昼寝が済むとじっとしていられなくて、早速外出して色々と調べまくる。カシュガル滞在は三泊だが、明後日の早朝にはタシュクルガンへ向けて発つので、実質今日と明日のみ。しかももう夕刻だから、中国新疆の旅を総括できるのは明日1日ということになる。

 まず急いで郵便局へ行き、ここで楽器を買ってEMSなどの国際郵便で送れるかどうか。宿泊しているY.H.は職人街を少し外れたところにあり、南下して人民公園の北を東西に走る大通り「人民東路・人民西路」へ出ると大きな郵便局がある。その二階のカウンターの反対側 (ドアに何も書いてないのでわかりにくい) に国際郵便を扱う部署があって、担当の女性は流暢な英語を話し、大変親切に教えてくれる。事前に調べたところでは、中国で楽器を日本へ送ることについて問題になる情報には当たらなかったのだが、基本的に楽器などの文化的産物を輸出するには政府の許可がいる。製造者や販売店が代行して発送する場合が多いが、個人では難しいし、お金を渡して後日の発送を待つことになる。これは信頼問題に関係するのでちょっと困難だなと思いつつ、国際郵便を発送できるギリギリの持ち込み刻限が19時であることを確認してそこを出た。

 次に楽器屋に立ち寄り、買う楽器を選ぶことにする。詳細は省略して結論だけを書こう。私が欲しいと思っていたのは、擦弦楽器の「ギジェック」と撥弦楽器の「ドタール」であった。いずれも、そこそこ良い状態のものは、ハードケース付きで3-5万円程度で手に入る。しかし、職人街に店を並べている楽器屋は、正直言って音楽のことをあまりわかっていない。あくまで観光客目当ての土産物屋だ。きちんと名刺をくれたところは数件、しかも国際郵便で発送するにあたって政府の許可が必要なことを知っていた店はなく、手続きを含めて後日の発送を確約 (つまり信用も含めて) してくれたところもなかった。他店はあしらわれた。だいぶ迷ったが断念した。まだ前途は長く、しかも険しいのである。

 次に旅行会社を訪ねた。これからホータン方面へ観光に行くので情報が欲しいと申し出た。もちろん偽りであるが、一般的な情報サービスの範囲なので問題なかろう。訊きたかったのは、個人旅行者である私が、なぜ何度も身柄を拘束されたかだ。ホータンでも数軒旅行会社に当たっているが、ほとんど使えなかった。カシュガルは、それよりずっとしっかりしていた。しかし彼らが口をそろえるのは、個人で交通手段だけを確保して単独行動をするのは危険だということである。つまり要約すると、新疆ウイグル自治区で人をコントロールする方法として、中国籍を持つ者は、そのIDカードによる。外国人は、基本的に政府に公認された旅行会社が管理する者と、個人で勝手に入国した者とに分かれる。中国籍を持つ者には行動の自由があるが、あくまでIDチェックによる検問を受ける。外国籍を持つ者は、中国政府が許可した範囲でしか行動できず、逸脱すれば拘束される。旅行会社が管理する外国人は、地方政府に提出された旅程に従って行動するので、多少の逸脱があっても多くの場合問題はない。しかし個人で勝手にうろつき廻っている外国人旅行者は、常に現場の警察組織が監視するので危険である。その運用は現場に任され、統一された基準がない。鉄道に乗って途中の駅で降りることは可能だが、おそらく現地警察に捕まってカシュガルへ送還されるだろう。あるいは、ホータンからウルムチなどへ脱出する有効な交通手段を持っていれば、ホータンへ送られる。いずれにせよ、ヤルカンドを含め、途中の街での滞在は不可能に近い。私が経験したのはまさにこれだったのである。

 さて旅の前半を総括する。今回の旅は、バイト先が改装のため2週間以上閉店することがきっかけであった。当初それは10月に予定されていたが、急遽5月に前倒しされ、準備不足のまま見切り発車した。この準備不足が全てに祟った。中国語やウイグル語の旅行会話すら習得できなかったことをはじめ、音楽に接するための周到な準備ができなかった。個人の力量では間に合わないと悟って日本で旅行代理店に相談したが、結局のところ、シルクロードの夢を遍歴する古代遺跡探訪の旅か、あるいは観光客用に村人が演じてみせる民謡鑑賞ツアーに参加するしか、事実上、選択の余地はない。それは国内手配で数十万円、カシュガルの旅行代理店でも1日1-2万円程度の出費を迫られる。

 仮に古代遺跡を個人で回るとするならば、公共交通機関の通っているところはほとんどないので専用車をチャーターするしかないが、彼らはまず外国人を国道より外へ連れ出せないだろう。トランクに潜むか、物流トラックの荷物に隠れるか・・・何れにせよ砂に埋もれた道を行くには専用の車が必要であって、それをチャーターするとなると、どうしても足がついてしまい、結局のところ十万円規模の出費となる。当初予定していた・・・それは夢想でしかなかったが・・・ダリヤブイへの旅なぞ、砂の沼を乗り切るための大型専用車を二台 (つまり一方が埋まってしまった場合の救援用) とドライバー、ガイドと食糧その他一式を装備したキャラバンとして出動しなければならず、軽く見積もって百万仕事、運良く客が集まってもせいぜい数十万という、まあ私には手の出ない旅になる。その手でせんずりこきながら寝てる方が余ッ程゜良い。

 新疆で音楽の旅というと必ず出てくるのが、カシュガル郊外の「芸術の村」として名の通る「麦盖提 (メルケト) 」で行われている古い「刀郎木卡姆 (ドラン・ムカーム) 」である。これはツアーで2万円程度、個人で村を訪ねようとしても、「麦盖提」という漢字が出てこなければお手上げである。困難を越えても行き着くところは、結局「刀郎木卡姆組合」であって、大枚な出演料を払って演奏会を催してもらい、経費と報酬を観客の頭数で分配する強固な仕組みが出来上がっていて、それ以上の音楽的触れ合いは、よっぽどの個人レベルのつながりがない限り不可能だ。その準備なしに闇雲に現地を歩き回ると、頻繁な検問と身柄拘束が待っている。アフリカやブラジルのように、行き当たりばったりに出歩いて素晴らしい音楽体験ができるなど、中国ではまず期待しない方が良い。

 準備不足と、最近の中国政府が推し進める開発がもたらす混乱、それを制圧するための体制・・・これを現場で思い知ったことが、旅の前半の総括といったところか・・・苦しい旅だったが、望んでできるものでないことは確かだ。中国という、複雑で巨大な国を実感する。これが58回目の誕生日を迎えた感想である。

posted by jakiswede at 00:00| Comment(0) | Uyghur-Pamir 2017 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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