穀雨である。穀物の種を蒔く時期とされる。稲の場合、品種によって異なるが、考え方の基本は、開花日を中心にして、それ以前は開花日からの逆算、それ以後は順算によって決める。稲は、彼岸花のように、その年の気候条件にあまり左右されることなく、ほぼ一定の日に開花する。最もポピュラーな品種である「コシヒカリ」は、栽培の仕方にもよるが、通常8/09頃に開花する。コシヒカリは田植えから開花までが約90日、苗代での育苗が、機械植え用3葉の幼苗の場合約30日、手植え用5葉の成苗の場合約45日が標準的な所要日数である。だいたいこれを基準と考え、これより早い品種を早稲、遅い品種を晩稲と呼ぶ。したがって多くの田んぼで田植えは5/09頃、自然農的な手植えではだいたいその二週間後が田植えの目安となる。
さて種を苗代に下ろします時期については、そのまま種籾を撒くのも良いが、なるべく状態を揃えた方が後の作業が楽になるので、発芽 (実は発根) の下処理をするのが良い。手順は、種籾の必要量の算出・塩水選・温湯消毒・浸水・催芽処理の順になる。浸水以外の処理は短時間で済むが、浸水は一週間程度かかる。厳密には、その日の平均気温を足していって、積算で100℃、すなわち平均気温が20℃であれば5日間の浸水が発根しはじめる目安となる。これも品種によってかなり異なり、赤米の「神丹穂」という品種は4日ほどで発根するが、「豊里」という品種は10日以上かかることがある。これらを全て逆算していって、種籾を水に浸ける日を決めるのである。例えば「豊里」は、9/15頃に開花する。従って田植えは6月中旬、苗代に種籾を降ろすのが5月の初頭、種籾を水に浸けるのが4月の下旬という風に逆算しておおよその日程を決める。
まず種籾の必要量を算出する。実際に植え付ける面積を算出しておいて、これを植える株間x条間で割る。つまり一反すなわち1,000平米の田んぼに株間も条間も25cm間隔で植えるなら、1,000 x 100 x 100/ (25x25) = 16,000 箇所に植えることになる。一箇所に三本植えするとして、選別によって落ちたり育苗までに何らかのロスがあると見越して、5万粒の種籾を用意する、という風に考える。で、大雑把にいって、籾一合が5千粒程度なので、籾を一升用意しておき、ある程度余らせる前提で使う計算になる。
塩水選とは、要するに比重によって充実した種籾を選別することである。一定の比重を持った食塩水を作り、それに種籾を入れて、浮いた籾を取り除き、沈んだ籾を種として使うのである。選別の基準となる食塩水の比重は、選別する種籾の品種によって異なる。そこで問題になるのは、この食塩水づくりである。比重とは、一定の体積における物質の充実度を指すもので、重量比による濃度とは全く異なる。標準的な粳米を選別するときの食塩水の比重は1.13、糯米1.08とされているが、例えば1ℓの水に何gの塩を溶かせば良いかを計算することは至難の技である。なぜなら塩を水に溶かすと、その食塩水の重量は両者の重量の和になるが、体積は両者の体積の和より小さくなる。溶解するとはこのことで、完全に溶かしても、もとの水の体積と同じにはならず、見かけ上、溶液が膨らむ。例えば比重1.13の食塩水を作るとき、経験上、重量比で水 : 塩 = 4 : 1 で濃度20%の食塩水を作り、それをやや薄めると良いことがわかっているが、その濃度はおよそ18%程度である。ところが常温ではこの食塩水ができないので、水の温度を上げることになる。鍋で沸かすとかなり蒸発して水の量が減るのでさらに溶解が困難になり、どの程度蒸発したかもわからなくなるので、予め多めの熱湯を用意しておき、これを必要量だけ計量して溶解することになる。しかしこれも冷めるまで蒸発が続き、冷めると容積が少なくなるし、さらに溶けていた塩が結晶しはじめて濃度が下がるので、正しい基準食塩水を作ることが難しいからである。そこで、基準を明らかに超える濃度の食塩水を作っておき、これを冷ました後に濾して塩の結晶を取り除き、そこへ種籾を投入するという方法を取らざるを得ない。その際、残した食塩水は捨てずにおいておく。
伝承的には、生卵を浮かべて全体が浮けば良いという素朴な尺度も存在する。選別する種籾も、その品種によって、元々の充実度や糠に含まれる油分が異なるので、一概に上の基準は当てはまらないが、複数の品種を選別する場合、見た目で充実度の高い品種から始める。
最初はほとんど浮くはずであるので、これを水で薄めていって、沈みはじめるときに注意深く観察し、ほぼ半分が沈んだ段階で浮いている籾を取り除き、沈んでいる籾を回収する。
回収した種籾はすぐによく水洗いしてとりあえず水に浸けておく。そして徐々に軽い品種へ水を薄めながら選別し進めるのである。薄めすぎた場合、上で残しておいた食塩水を足して濃度を上げることはできるが、重い方から軽い方へ作業を進めるのが基本である。
塩水選を済ませた後は速やかに流水で洗う。並行して温湯を用意しておく。温湯消毒の基本は60℃の温湯に10分浸すことである。糯米はやや発芽率が落ちるので、種籾を2割程度多めに用意する。温度を保つために風呂で多めの湯の中にバットを沈めながらやり、網袋の口をしっかり縛って籾が混ざることを防ぎ、木じゃくしなどで網袋をよく撹拌するなどの工夫が必要である。60℃の温湯はかなり熱いので、素手では火傷するので、網袋の紐を放すことなく、周到に準備して行うのが良い。
温湯消毒の後も速やかに冷やす。その後、上の説明にある通り積算温度100℃を目安として浸水し、種籾が鳩胸のような形に膨らんだら、40℃の温湯に一日程度浸すと白い根が出揃うので、それを数時間乾燥させて苗代に撒く。以上が米作りの最初の作業である。
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