Erykah Badu: Baduizm (CD, Universal, UD 53027, 1996, US)
Rimshot (Intro)
On & On
Appletree
Otherside Of The Game
Sometimes
Next Lifetime
Afro (Freestyle Skit)
Certainly
4 Leaf Clover
No Love
Drama
Sometimes...
Certainly (Flipped It)
Rimshot (Outro)
https://www.youtube.com/watch?v=HEPo3DEBtUI
https://www.youtube.com/watch?v=73aLNB0pPuQ
これはD’Angeloの翌年に買った。尼崎市内の強烈にエキゾチックなアパートに仮住まいを始め、バイトで食いつなぎ、ぶり返す悪夢と戦っていた。枕許に東海道本線が走り、夜通し数分おきに貨物列車が通過する。凄まじい轟音と振動で、とても眠れたものではない。それは「あの瞬間」を思い出させるに十分すぎる刺激だった。選りに選ってこんなところに仮住まいを始めてしまったのには訳があるが、それは措くとして・・・しかしここに長年暮らす人もいる。慣れとは恐ろしいもので、午前2時ごろ數十分ほど列車の往来が途絶える時がある。そこを狙って眠りに落ちる。そんな状況の中で、どうやってこのアルバムに出会ったか全く覚えていないのだが、パッと見てすぐ買った。イントロから、独特の歯切れの良いリム・ショットの音とソウル・ミュージックに特有の、甘くて丸くて暗い、粘りつくようなグルーヴを持つベース・ライン・・・たちまちこの世界に引きずり込まれる。オーソドックスなソウル・ミュージックである。しかし1970年代とは何もかも異なる。レーベルのオール・スター・バンドがあって、そのバッキングに乗せて歌手が量産された時代ではない。あらゆる指向性は細分化されて、大きなシーンでも、一つのコンセプトをバンド演奏で練り上げることが困難になっている。Hip HopやRapは、個人のメッセージ性がモノを言う「音楽」である。「」付きにしたのは、これらが純粋に「奏でられたもの」ではないので、私としては音楽と呼ぶのに若干の戸惑いがあるからである。しかしそれらの影響を受けて、さらにデジタル技術が洗練、蓄積されて、多くのトラックが容易に (「安易に」ではなく) 完成できたことも事実である。都会的な現代ゴスペルの中で蓄積された才能、プロデューサー・シンガー・ソングライターのMadukwu Chinwahが関わった作品群と、ほぼ世界唯一と言って良いバンド演奏によるHip Hopグループの ≫The Roots ≫が関わった作品群があり、彼らがバック・トラックを制作して、コーラスを含めた全てのヴォイスをErykah Baduが務めている。トラックの多くの部分が、そうしたプログラミングや多重録音で構成されているが、それによる違和感は全く感じない。それどころか、その一貫性が、バンド・サウンドよりも強固な個性を打ち出すことに成功している。全体として見事に統一されたアルバムの空気を持っていて、イントロから徐々に、ソウルフルでアフリカ的な、つまり呪術的で反復を基調とした、そこに私は色濃いバントゥーのニオイを感じるのだが、さらに硬質で社会的な緊張感を孕んだ世界に降りてゆく。特に、転調してもベースが安易に追随しないのが良い。転調されたコードと共通の音程を慎重に選んで変わっていく曲想に、むしろ動かしがたい凄みを感じる。初めは、愛について、男と女の気持ちのすれ違いについて・・・彼女の、低いが真の強い、見事な歌い回しに導かれ、そして事実上のラストを飾る ≫Drama ≫で、このコンセプトが見事に提示される。なんと、この曲だけRon Carterがベースを弾いている。「この世界はとてもドラマチック・・・こんな世界に私たちが生きているなんて、とても信じられない。なんという、狂いに狂った世界に、それでも私はまだ生きている。」そう、生きることそのものに苦しむ人が世界中にいる。いや、苦しんでいる人の方が、はるかに多いに違いない。これは24年前に発表された作品である。あの頃に比べて、今はもっと切羽詰まっている。状況に苦しみ、心を痛めない人は、おそらく気がついていないだけに違いない。生きるか死ぬかの瀬戸際にいる人たちに比べて、私はなんと幸であろう・・・出自によって差別されたわけではない。不当に隔離されたわけでもない。仕事がないわけではない。貧富の差に落ちているわけでもない。デモに参加して拘束されたわけでもない。間違った教育を受けたわけでもない。そしてい命が狙われたわけでもない。「子供たちに知恵を、明日を生きられるように、本当の知恵を・・・」私は今でもこの曲を聴くと涙が出る。なんという安らかな、暗くて冷たい、厳しい、絶望的な、そして希望に満ち溢れた歌だろう・・・そしてアルバムは進行し、徐々に現実に戻っていく、独特の歯切れの良いリム・ショットに導かれて・・・
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