ようやく録り溜めてきたNHK-FM「古楽の楽しみ」の音源整理を終えた。私はクラシック音楽が苦手である。あの、なんともいえぬ「その世界の音感」が苦手なのだ。それを「クラシック臭さ」と勝手に呼んでいるのだが、それがなんなのか、あんなに「臭い」ものを好む人間が多いのは何故なのか、もともと学校教育からしてあの「臭さ」を撒き散らすのは何故なのか、まあそんなことに興味があったのである。私は1970年代はプログレッシブ・ロックをよく聞いていたのだが、そこからイギリスやヨーロッパのトラッドやフォークへ行くのはすぐだった。その音感はこよなく好きで、やがて中世のヨーロッパの音楽に行き着いた。それは分類上、「クラシック音楽」に属するのだが、情報を得ようとしても、巷には仰ぐべき師匠はいなかった。大抵、バッハ以前の音楽は聴くに値しないという評価だった。全く偶然、あるバンドの練習場所が西宮市の甲東園だったのだが、そこには日本がルネサンスに誇る「ダンスリー・ルネサンス合奏団」があったのだ。師匠はそこにいた。しかしまだ時代はそこまで来ていなかった。若かった私の興味の拡散は広くて激しく、その狭い世界には飽きてしまった。長い長い紆余曲折を経て、ようやく「古楽」というものが見直され、演奏家がたくさんいることに気がついた。全く知らぬ世界である。ラジオはまさに、知らぬ世界へ誘う専門家の貴重な授業であった。日本の音楽界にも、立派な研究者が何人もおられ、早く早く亡くなってしまった民族音楽研究家の小泉文夫大先生をはじめ、なんといってもクラシック界の大御所、皆川達夫大先生の意外な側面も別番組で知った。そのなかでバッハ研究の第一人者であった磯山雅大先生がお亡くなりになったのも知らなかった。その道を極めた人は、単なる専門知識の羅列だけでなく、なぜそこに注目して、なぜその演奏が良いのか、その価値を単刀直入に解いてくれる。もう、聞いていて面白くて面白くて仕方がない。クラシック音楽の歴史が、いかにしてあの「臭さ」が醸成されたか、そしてその「臭み」そのものがクラシック音楽の本質であって、その中に入り込めば、様々な微妙に異なる「臭み」を楽しむことができることもわかった。その「良さげ」なことは理解した。でもやっぱり苦手だということも確認できた。だから、やはり私は「古楽」に向くのである。「古楽の楽しみ」とはいいながら、番組内容のほとんどは「バロック音楽」である。本来「古楽」という言葉は、私の理解では中世からルネサンス前半、作曲家でいえば大バッハ以前のものを指していたはずなのだが、そんなものは年に数回しかかからない。従って大半の録音は破棄した。残されたものを聞き込み、作曲者や演奏家をキーワードに追い求めていって、さらに参考文献まで教えてくれるものだから、便利なインターネットで検索しまくった結果、私は一つの見解を得た。だいたい1600年頃を境にして、ヨーロッパのクラシック音楽は「臭く」なるので、聞くべきはそれ以前、流石にグレゴリオ聖歌では単調にすぎるので、12世紀のHildegard von Bingenあたりから始めて、13世紀の吟遊詩人その他、14世紀に入って行われる様々な技術的な変容・・・その辺りが最も面白い。一つ一つに敬意を払いすぎると、またぞろひと財産イッてしまいそうになるので、申し訳ないがほとんど我慢してmp3、それでもアルバムを通して極めて良い演奏と調べがついたもののうち、日本円に換算して送料込みで\2,000未満のものに泣く泣く限定してCDを購入してしまった。私はメンタルの弱い人間である。CDを処分しようとしているのに増やしてしまったのだ。しかし6年分の日本の古楽会の総力の結晶を聞き込んだ末に厳選したCDがこれだけに絞り込まれたのだから、まあ良しとせんかい。良いアンプで聞くと、耳の常識が吹っ飛ぶほど素晴らしい音世界が広がる。これこそまさに「引きこもりの美学」・・・このような時世、誰に気兼ねすることもなく、よくぞ首にしてくれました、幸せの日々を、どこ吹く桜・・・
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