2020年12月03日

20201202 Ufip Ritmo C-R. 20

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 ヤフオクでシンバルをポチってしまった。私はなんと我慢のない人間だろう。たいしてドラムを叩けるわけでも、お呼びがかかるわけでもないのに、還暦バイト風情が何十枚もシンバルを持っている。このこと自体異常なのに、また買うか ??

 手元にパール楽器製造株式会社の1976年のカタログがある。私が16歳、つまり高校生の時だ。もちろんドラム・セットなんて買えるはずもなく、ただカタログを見てはどんなセットを組むか空想していただけだ。巻末にシンバルのラインナップがある。スイスのPaiste、これにはFormula 602・2002・Dixieという3つのシリーズがあって、Yamahaが標準でカタログに載せていたアメリカのA.Zildjianと双璧を成していた。

 当時は、今のように楽器の大型量販店などはなく、ドラムのことは街の楽器屋か、難波に今も社名を変えて現存する老舗、中田楽器で尋ねるしかなかった。それでさえ、シンバルなど注文しなければ見ることもできず、たまたま入ったものがハズレでも買わざるを得なかった。しかも高い。Paiste Formula 602など20インチで5-6万はしたし、A.Zildjianでも4万円近くした。Paisteは総じて均質だったが、A.Zildjianの当たり外れは凄まじく、よっぽどのツテでもないと代理店の不良在庫をつかまされる世界だった。中田楽器は音楽業界に絶大な信頼のあるサプライヤーだった。しかも「中田のおっさん」といえば誰にでも通じるし面倒見も良い。店は狭かったがサロンのような状態で、結構有名なドラマーや業界関係者が多く出入りしていた。よく通ったが何せ高いので中古のパーツや掘り出し物のアダプタを買ったことしかない。

 大阪にはもうひとつ、ウエルズ楽器という割とオープンな店があって、そこには僅かながらドラムのコーナーがあった。その担当者が、何を隠そう大阪が世界に誇る谷九のドラム専門店「ACT」の創立者である。店には当時の常識からすると無謀ともいうべき、ドラムの試奏室があった。店内の商品はほとんどそこへ持ち込んで試奏することができた。店はかなりの投資をして、ドラマーのために在庫を揃えていた。これは勇気ある英断だったと思う。今のようにバンド・ブームなど先の先、ドラムをやるなんて、全く稀有な存在だった。しかし私がそこで培った感性はかけがえのないものだ。そこで多くの楽器に触れることができた。ペダルはYamahaのFP-710が出た頃だった。Ludwigのスネア、Super Sensitiveにも触れた。シンバルでは、K.Zildjian Istanbulが買収されてカナダに移り、それについて行かずに残った職人たちでIstanbulブランドが結成された頃だ。その後のシンバル業界の離合集散は激しく、その経緯を具に見られたのも、この店あってのことだ。

 さてその中で一際異彩を放っていたシンバル・メーカーがある。今は俗に堕してしまったがイタリアの老舗Ufipである。先程の1976年のパールのカタログによると、当時RitmoとStandardの2つのシリーズがある。刻印の違いによって製造時期がわかるのだが、この頃はすでにRitmoのハンマリングは機械化された様子である。実はこのRitmoというシンバルは、もともとハンド・ハンマリングの手作り品であって、よく出回っている1970年台のRitmoとは刻印が違う。イタリアの孤高のシンバル職人R.Spizzichino氏が修行したとの資料もあるが、時期的には一致しない。

 当時、あまりにも高くて売れないシンバルは、代理店が持て余してスタジオやレンタル業者に流出されることがあった。だから私は、さまざまな時代のA.Zildjian、K.Zildjian Canada、初期のSabian HHの音を知っている。そのなかに非常に薄くて鳴りの良いUfip Ritmo Crash Ride 20’があった。もちろん高くて買えなかったが、 ACTがレンタル部門を独立させた頃だったので覚えている。今回落札したシンバルは、多分間違いなくその個体である。まさか、たまたまヤフオクのサイトを見ていて写真に釘付けになった。入札者のほとんどは、おそらくUfipシンバルの新しいものしか知らないのであろう。そんなに高く取引されるものではないので、数人と競り合ったが、送料を入れても一万円でお釣りのくる激安価格で落札した。

 状態は50年ほど前のシンバルそれなりのものだが、音は非常に良い。昨今もてはやされているような、とってつけたような枯れた音ではなく、古いA.Zildjianとは別の明るさ、イタリアらしい弾けるような音色と、ダークな影が良い具合に入り混じった逸品である。良い音に恵まれると練習したくなる。

 蛇足だが、1976年のパールのカタログには、さらにイタリアのToscoというシンバルが掲載されているが、私は実物を見たことがない。ほかにパールそのものも自社ブランドンシンバルを出していて、そのうちDeluxシンバルは台湾製で、原料のブロンズが良いので、安いわりに大変良い音がする。しかし、もっと安いスタンダード・シンバルはアルマイトの鍋蓋のようなもので、高校の軽音楽部の部長をやっていたときに、予算を使って独断でこのシンバルを買ったのに、たった1時間でボコボコにしてしまった苦い経験がある。それに懲りて、翌年部員の反対を押し切って部費を徴収し、学校の予算委員会でゴリ押ししてPaiste Dixieシンバルの14’ Hi-Hatと20’ Crash Rideを購入した良い思い出がある。それが私のシンバル・グルメのスタートであった。

posted by jakiswede at 00:00| Comment(0) | 音楽活動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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