年が明けて、昨年末の問題を冷静に解決する方法を模索しはじめたところ、解決の光明が見えてきた。最も深刻な問題は、私が農家資格を失ったことである。しかも、それが役所内での連絡のタイミングによって起こったこと、それを出先機関が認めないことである。私に非はない。資格を剥奪されるようなことはしていない。出先機関の「指導員」を名乗る職員は、地元の農家からの嘱託であって、試験に合格した公務員ではない。関係法規を熟知しているわけではなく、ほぼ慣例に沿って仕事をしているので、特殊な事例の場合は指導内容が正確でない可能性がある。その指導を鵜呑みにすると今回のように資格を失うという事態にもなりうるが、かといって指導を無視すると法律を厳密に適用して抑制的な対応を取られることになる。
抑制的な対応とは何か。例えば農地法には農地利用についてほぼ具体的に規制内容が書かれているが、曖昧な点も残されている。最も多く問題になるのは「肥培管理」と「周辺環境」に関するもので、これは本来、耕作放棄したり放任したりして田畑を荒らしたり、畦や土手などの境界部分を手入れせずに周囲に悪影響を及ぼすことを防止するためにある。しかし、これを厳密に適用すれば、肥料や農薬を使って作物に管理が集中できているか、隣接する作物と交配して異常な品種が生まれないかを厳密に問うことになる。つまり、自然農や在来品種の栽培を合法的に規制できる仕組みになっている。文言を厳密に解釈すればするほど、農作の自由度は失なわれる。その匙加減は担当者が決めるのである。もちろん私は13年間撃たれ続けたので、それを回避する方法も熟知しているし書面として持っている。私のやり方で実際に外部に影響を与えたことがないのは、JAの地元技術チームも農業委員会事務局も把握しているところである。しかし出先機関の指導員が一定の判断を下した場合、本庁からそれを覆すことは難しい。このようなことがあるので、農家は農業指導員に頭が上がらない状態になっている。できるなら触らずに済ませたほうが良い。
今回の光明は、思わぬところからもたらされた。農業委員会とは全く異なる部局、建築住宅局建築指導部安全対策課であった。昨年末、私は建築確認書を閲覧するために、その隣の建築安全課を訪れていたのだが、購入しようとしていた中古住宅の敷地の前面道路が、「建築基準法上の道路」に該当するかどうかを調べていた。その結果、書面の間違いを偶然発見してしまったのである。建築計画概要書に記載されていた道路規格では、その道路は建築基準法を満たしているとされていたが、神戸市のデータ・ベースによると満たされていなかったのである。この食い違いがどのような結果になるか、つまり私が購入して代金を支払っても、開発許可その他の関係で私が住居として使えないのではないか (その時点では、別の部署で開発許可が必要と言われていたので) 、それを危惧したのである。結果的には、農家が農家住宅を買う場合は開発許可が必要なく、道路の規格は関係ないことが分かったのだが、書面の記載が実際と異なるという問題は持ち越された。私は購入予定の土地について正確に知っておきたかったので、その調査を依頼した。その返事が、年を越えて先日、安全対策課からもたらされたのである。
その返事は、開発許可の是非については、書面ではなく実態を基準に判断するので、この物件を開発する場合、土地に接する道路を拡幅舗装して、市が建築基準法上の道路として認めなければならない。それをやろうとすると、かなりの距離、しかも隣接する農家の庭と田んぼを削っでまで道路を作らなければならなくなり、ほとんど現実的ではないということだった。つまり、家を持っていない農家が住宅として購入する以外に取引の現実味はないという。
「それはそうとして、この空き家をお買いになるのですか」と担当者が訊くので、私は事情を説明し、現在農家資格が切れた状態になっていて買うことができないと答えると、「つまり農業委員会の連絡の行き違いで、農地を借りることも、空き家を買うこともできなくなっているというわけですね」・・・部局が違うのに妙なことを訊くなと思っていると、要するに安全対策課では空き家対策も業務としていて、ほとんど農村が対象であることから、農村全体の問題について部局を越えて連携する動きがあるというのである。
その結果、驚くべきことが起こった。建築住宅局建築指導部安全対策課のこの若い担当者は、部局を越えて農業委員会事務局の同僚に事情を説明し、同僚は出先機関の同僚を通じて私が嘘を言っているわけではないことを確認し、単なる事務手続きの行き違いを訂正して私の農地利用権設定書類を受け付けるべく、当局が待機するように取り計らってくれたのである。そんなことができるのか、半信半疑ながら私は返送されていた書類を、出先機関ではなく、本庁のその同僚宛に郵送した。書類に不備はなかったので、正式に受理して手続きに入ったことが、さきほど電話で知らされた。「空き家を一つでも減らし、遊休農地を再生させ、獣害対策に寄与する人の意思を阻むなんて、行政のやることじゃありません・・・」神戸市もまだまだ捨てたもんじゃない。これで「三つの事情」の二つが解決され、残すは「村の厄介者」が家を持たないこの哀れな百姓に交渉権を戻してくれることだけになった。とりあえずこれで13年の空白を作らずに済んだ。
・・・しかし・・・もし仮に、例の「村の厄介者」があの空き家を買うことに固執し、家主がトラブルを恐れて彼に家を売ってしまったら、そして今の家主が私に立退を要求したら、私はあの農地を耕作するために遠方から通わなければならなくなるかもしれない。その場合、「適切な距離」を継続の条件としている利用権設定が更新されなくなり、結局元の木阿弥になる。集落の1/3近くが空き家で、耕作放棄地は増える一方なのに、売らない、貸さない、使わせないという村民の意識が変わらない限り、志を折られて去っていく移住者はあとを絶たないだろう。その一方で移住促進事業は進められている。しかもその主要メンバーに、その「厄介者」の甥すなわち空き家の直接の購入者が含まれているのである。彼ないし彼の家は、あの家を買ったところで放置するしかない。関係法規を熟知していないため、自らが移住促進事業の妨げになっていることにすら気付いていないのである。まずは客観的事実を正しく理解すること、その謙虚な気持ちがなければ、どのような事業も成立すまい。・・・考えていても仕方がないので、とにかく畑の草を撤去しはじめる。
広い畑に鍬を入れるとき、あまりに広いと気持ちが負けてしまうので、小さく区切って目に見えるようにロープでも張ってやるのが良い。この圃場の上面の平らな部分全体の広さは約1,400平米、怒手際と山際にある程度干渉帯を設けるとして精々一反の広さであるから、朝夕2時間ずつ作業したとして、全体を耕し終えるのに一週間、真ん中は猪がだいぶやってくれてるんでちょっと楽、際は太゛いススキの根がいっぱいあるんでこれを撤去するのが苦、疲れその他を考慮に入れて今月中には形にできるかな・・・