農業を志して農村に家を確保しようとする場合、非常に困難な問題が待ち受けるので、それについて書いておきたい。これは神戸市の場合なので、自治体によって事情は異なるかもしれない。
農村に家を買ったり借りる場合、ほとんどが市街化調整区域にある農家住宅が対象になる。農家住宅とは、農業を営むためにのみ認められた、都市計画法に基づく住宅のことであり、外見を問わず建築確認で用途が決められており、一般住宅の形をしていても農業者でなければこれを買ったり借りたりすることはできない。
目指す住宅を購入する場合、まずは法務局でその物件の地番を特定し、土地や建物の登記がどうなっているかを調べる。これは通常の不動産取引でも最初にやるべきことである。抵当権が設定されているなどの問題がなければ、その自治体に問い合わせて、その場所が都市計画法による市街化調整区域にあるかどうか確認する。そして、市街地と市街化調整区域を線引きした日付を確認し、市役所でその建物の建築確認の日付を見て、それが線引きより前か後かを確認する。
線引き以前の場合、線引き以後に改築されていなければ農家でなくても一般人でも購入できるし、一定の条件のもとで建て替えや開発もできる。しかし実際には築年数が高くて傷んでいる物件が多いので、補修する費用が大きくなって実用的ではない。線引き以後の物件については、後で説明する。
これから新規就農をする者が農村に住宅を求めることは、線引き以前の良好な物件に巡り合わない限り、事実上不可能に近い。それ以外はモグリである。私の場合、現在借りている農家の、住み込みの空き家管理人という立場で移住した。しかし、それが原因で正式な村入りが遅れ、就農手続きも遅れ、結果的に村八分状態となり、今回の事態を招いた。また、同じことを考える多くの人は、何の届けもせずに住民票だけ移している。いずれにせよ、家主が立退を要求した場合、法的には対抗できない。まずは、なんとかして新規就農の手続きをとって、農家資格を獲得することが先決となる。
しかしここでも何度も触れたように、農家になるには、指定された研修期間で2年ほどの研修を経て合格し、実際に農地を確保して1年間問題なく営農していることを農業委員会に認めさせなければならないから、これだけで3年の年月がかかる。こうして初めて農村に農家住宅を確保する目処が立つ。この時点で、農家住宅を賃借する権利は問題なく発生する。
市街化調整区域にある農家住宅のうち、使える状態のものはほとんどが線引き以後に新築または改築されている。この場合、購入するには農業者証明書が必要になる。これは新規就農して少なくとも一年以上、問題なく営農している実態を農業委員会が認めて初めて得られる。農家資格とは、新規就農の手続きをしても農地台帳に名前が載るだけで、資格証明書の類はない。農家住宅を購入したり新築したり改築したりする場合、その都度証明書の発行を申請することになる。そのうえで、営農している農地が集落内にあることが事実上の認可要件になるので、その図面と貸借証明書が必要になる。また、農家は、一世体当たり農家住宅を一軒しか持つことができないので、事前に仮住まいしているのであれば、それを証明できる書類が必要になる。
これで手続き上は農家住宅を購入できる。購入した後、必ず法務局で土地や建物の登記をしておくことを忘れずに。これをしておかないと、もしもの時に所有権を主張できない。また、市街化調整区域とは、開発を抑制する意図で設定されているので、農家として営農するために建てられた農家住宅を、ほかの目的に使ったり、壊して更地にして投機対象にしようとすると、様々な規制がかかって、その狭間に落ちるととんでもないことになる。その複雑さはプロの不動産業者も手を出さないくらいなので、我々の考えるべきことではない。
さて、以上のことだけであれば、さほど複雑とは思われない。しかし世の中では様々に不正確な情報がまかり通っており、混乱の原因になっている。それは、都市計画法・農地法・農振法・建築基準法・借地借家法・不動産登記法など、多くの法律の網の目に足を掬われて奈落の底に落ちる人が多いからである。不正確な情報は、それらに陥った人の遭遇したケースの一部分が一人歩きしたものがほとんどである。
曰く、未登記の建物を購入したら開発許可の申請を求められ、許可が得られなかったために使用できなくなった。曰く、属人性をクリアしても接道義務が果たされていなければ開発許可は降りない。曰く、農業振興地域に指定されている場合、宅地であっても親族にしか所有権が認められない・・・市役所・農協・不動産業者・・・それぞれに言うことがまちまちなので、最終的には全部羅列して各部署の最も信頼できる機関に問い合わせることが大切である。正面突破せよ。
というわけで昨日、外出自粛が激しく求められている中、それでもクリスマスムードいっぱいに花咲く三宮界隈を、プロでも手を出さない頭の痛くなるような案件を解決するために走り回ったのでありました。感染予防の観点から車に自転車を積んで移動し、三宮で最も安いパーキングに1日駐車して、自転車で神戸の街を走り回りました。
そして最終的に分かったことは、なんと、私の農家資格が既に切れてしまっていることでした。以前、農地を乗っ取られた時に、問題を穏便に解決するために農業委員会に相談したのですが、争いを避けて合意解約の手続きを踏んだのでした。書類には三つの日付を書く欄がありました。解約を申し入れた日・解約が成立した日・農地を明け渡す日。それぞれ、地主が作付けをしていることを確認した日・解約合意ができた日・賃借料を支払う期限、と説明されたので、その指導に従って日付を入れたのでした。私の常識では、賃借料を支払ってある限り、契約は有効なはずです。したがって今年の末まで私は農業者であるはずでした。しかし農業委員会の見解は違います。解約の合意が成立した時点で、申し入れた側は権利を失うのです。すなわち私はすでに農家ではなく、農地利用に空白期間が生じているため、新規就農の研修から3年間のプロセスを、もう一度やり直さなければならないのです。なんということだ。年内に問題を解決して、年明けから再出発と考えていたのに、そのスタート・ラインが13年も前に引き戻されてしまったとは・・・それもこれも、決して私が望んだことではない。問題を穏便に解決しようとして、関係機関に相談し、その指導の通りに手続きしたのだ。即刻、私は不服を申し立て、農家資格の継続の確認を求めることにしたが、そのような書式はなく、これからの戦いになります。でなければ、もはや行政に従うつもりはない。実力でやるべきことをやるまで。こうしてまたひとり、いらぬテロリストが養成されてしまうのである。
怒りがおさまらん。住むところがなければどうやって農業をするのか ?? 普通の人が常識的に考えてそうだろ ?? しかし農業委員会の常識は違うのだ。農地があってはじめて住処を確保させてやる。この堂々巡りは農業への入り口からして同じだ。つまり、農家でなければ農地を使えない。農地を使っている者を農家と認める。完全に閉じているのだ。ムラ社会のように。まるで鶏と卵の議論と同じだ。もういいかげんにしたらどうなんだ。ここまで穏便に、注意深く、最大限の忍耐を持って対応してるのに、馬鹿なことばっかり抜かしとったら本気でブチ切れるぞ !!