大事な事を書くのを忘れた。これからコンゴを旅行しようと思っている向こう見ずなひとは、是非読んでおいてもらいたい。コンゴという国がいかに旅行しにくいかという事は、前の記事でさらっと書いたので、だいたいのイメージはそこで得てもらうとして、まずは入国である。 コンゴの首都キンシャサのN'djili国際空港は、非常に古風で通常とはちょっと異なる。普通、外国の国際空港に到着すれば、到着ロビーに導かれて、先ずはパスポート・コントロールすなわち入国審査がある。その際に多くの場合、予め配布されているかブースの前においてある入国カードに必要事項を記入して審査官にパスポートや必要書類とともに渡す。そして事務的に処理が進められるはずである。
しかしN'djili国際空港ではそうはいかない。入国審査の際に外国人はひとまとめにして留め置かれ、コンゴ人を全て通しておいたあとで、ゆっくり「料理」される。この国を訪れる外国人は多くないので、まさに「飛んで火に入る夏の虫」である。だから、飛行機の中でコンゴ人の友達を作って、その人と一緒に行動する、というシナリオは通用しない。外国人は、独りずつバラバラにして別室へ案内され、数人がかりでつるし上げられる。私の場合は、例のビザの有効期限問題だ。彼等は、外国人から金を搾り取る事だけを考えている。逆に言えば、カネで解決出来る問題である。だから正攻法では全く物事が進まない。非の打ちどころのない旅行者であっても、奇想天外な理屈をつけて所持している書類を無効だと判定し、有効な書類を特別に作成してやるからカネを出せという。仮にそれを論破しても、私の経験上、今度は所持している正しい書類などを没収して破棄し、力づくで無効化するのである。重要な書類をカタに取られてしまっては高くつく。彼等はパスポートさえ、没収して破棄する事になんの躊躇もしない。これに対処するのはかなり困難である。決して金品をちらつかせたり、金を持っていそうなそぶりを見せない事はいうまでもない。なるべく情に訴える事、リンガラ語を習得しておく事は、かなり有効である。音楽やスポーツなど、彼等の大好きな話題に通じておく事も非常に有利である。
最も有効な手だては、前もって「お迎え」を手配しておく事だ。都合の良い事に、この国では伝統的に、「主」と「お伴」は切っても切れない相互扶助の関係にあって、「主」はどこへ行くにも「お伴」を連れており、「お伴」はたとえ火の中水の底「主」の赴くところ全てお伴するのである。この風習が、なんと国際空港にまで持ち込まれる。もちろん飛行機の中にまでは入り込まないが、「お伴」は平気で入国審査の境界をくぐって来る。つまり、到着ロビーは「未審査」の客と「審査済み」のお伴が混在する状態になっている。これを逆手に利用するのである。権威のある機関によって手配された「お迎え」は、境界線を越えて外国人を連れ出す事に異議を差し挟まれないのである。キリスト教関係者が最も良い事例だ。この国ではキリスト教関係者は、ほぼどんなところへもフリー・パスである。しかし日本人の一般旅行者が、これを利用出来る可能性はそう高くない。しかしもし知り合いが居るのであれば根回しする価値はある。次善の策としては、実業家や政治家や、土地の名士など、要するにair of importantなやつなら誰でもいいから「お迎え」に来るように手配しておくことだ。入国審査館や警察やDGMとはいえ、所詮タダのニンゲンであって、時には凡クラなガキンチョもいる。潰しの利く強引なやつが「お迎えでごんす」と現れて諸般の障害を取り払えば、なんの問題もなく入国出来る。入国スタンプでさえ刀にかけて押させることができるのだ。もちろん予め手配して雇っておくためにはカネがかかる。しかしこの方が、別室でつるし上げられて揺すられるよりも、遥かに安上がりである。
さて入国審査を通過したら次はBaggage Claimであるが、別室で手間取った場合には既に荷物はコンベヤにないと思った方が良い。この国では、飛行機で旅行するひとは全て「主」であって、その全てに「お伴」がつくのは当然の事である。つまり機内預けにした荷物は、頼みもしないのにポーターがタクシーのトランクに積んでしまっていて、識別番号の書かれたタグを持って出口に並んでいるのである。先述した通り外国人は多くない。従って、名前から客を特定する事はそう難しくない。そのポーターとタクシーの運転手、ポリ公と警備担当の兵士はグルになっていて、全てに割り当てられた賄賂の合計を徴収する役人まで待ち構えている。旅行者が自分の荷物をタクシーのトランクに見る頃には、到着から数時間が経過し、もうどうにでもしてくれという心境にまで追いつめられていて、彼等のお膳立てに従ってその大枚な料金を支払う羽目になる。もちろんUSDで、だいたい100くらいが相場である。
運良くつるし上げを短時間でクリアし、荷物の積み降ろし作業が手間取って、コンベヤ上に自分の荷物を発見した場合、その荷物は絶対手放してはならない。「彼等」は、客の荷物を奪い取っておいて、返してほしければ金を出せという論法で来るので、とにかく身を挺してでも死守すべきである。彼らは屈強で、数人がかりで荷物を強奪に来るが、とにかく荷物を抱きかかえて出口の方へ進む。しかし「出口」などという表示はないので、とにかく明るい方へ進むのである。空港内は暗い。途中でいくつもの関門がある。荷物のタグとチケットの番号が一致するか・・・まあこれは見せてやっても良い。しかしその先に必ず待ち構えている荷物検査は、出来ればうやむやの内に素通り、出来なければ多少の賄賂を使ってでも開けさせずに進む。逆に言うと、ちょっとカネを渡せば、なんでも持ち込めるという事なのである。セキュリティもなにも、あったものではない。荷物検査で荷物を開けられるとどうなるか、電化製品など、金目のものは先ず奪われると思って良い。理由はどうにでもつけられる。奪い去るか、奪っておいて返してほしければ・・・の論法で来るかは問題ではない。開けさせない事が肝心だ。
無事外に出る事が出来たら、次は両替である。空港内に銀行は存在しない。そのかわりそこら中に札束を抱えた両替屋がいて、外国人を見ると走りよって来てもみくちゃにされる。2010年3月現在、USD1=FC910であった。コンゴの最高額紙幣はFC500である。つまりUSD100を両替すると、FC500の5センチくらいの札束を渡される。彼等はFC500を25枚でひとくくりにし、それを7束と7枚でFC91,000と計算する。しかし往々にしてFC500紙幣は不足しているので、そのなかにFC200やFC100が混じると、非常に計算がややこしく、しかも札束も分厚くなる。しかし彼等は実に暗算が速く、たいていの場合正しい。しかし空港の両替屋は、その25枚の中に混ぜ物をしてあったり、抜いてあったりするので、かならずVerificationといって、一枚ずつ数えさせる必要がある。
両替が済んだら、市内へ出る交通手段の確保である。余程荷物が小さくて軽い場合、群がって来るタクシーの客引きや、ポリ公や兵士を振り切って、空港敷地の塀の外へ走る。しかしそこには遮断機があって、屈強な兵士が待ち構えている。たぶんこれを越える事は、外国人には困難だと思う。しかしその外側にはBoulevard Lumumbaという広い道路があって、真っ直ぐキンシャサの中心部へ続いている。コンゴでは、車は右側通行であり、空港を出て右手側が都心であるので、遮断機の脇で待っていると、青と黄色に塗り分けられたワンボックスのバンにひとが鮨詰めになったやつがやってくるであろう。行き先の地名がわかっていれば、ドアにしがみついている切符売りの兄ちゃんにその地名を告げれば、その車がそこへ行くのかどうかはわかる。そのワンボックスの事をタクシー・ビスと呼ぶ。その走るルートにもよるが、都心までだいたいFC500である。
しかし、たぶん外国人旅行者がおおきなにもつをもってこれに乗ることは不可能か、あるいは断られる。その前に遮断機を越えられないか、タクシーのどれかに捕まってしまうであろう。協定によって、空港の外で客待ちしているタクシーも、空港内で客引きをしているタクシーも、都心までは同じ料金すなわちUSD50ということになっている。これは法外な値段であるが、一般的な旅行者にとっては、これ以外に都心へ出る手だては、ほぼない。
予め「お迎え」を車ごと手配してあった場合には、これらの一切は、面倒なくクリア出来る。もし万一渡航される民間の方がおられれば、よろこんで情報を提供しよう。
次は、コンゴ国内の旅行、さらには出国の仕方について書こうと思う。今夜は蒸し暑く、大変な強風である。明日の労働に備えて、そろそろ寝るとしよう。